1.2 冒険者デビュー
「……ル。エル。ノエル起きなさい。」
微睡みの中、誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。誰だろう?母さんでもシャルでもない。あぁー駄目だ、まだ眠たくて仕方ない。そのまままた、深い眠りにおちそうなった時、背中を強い衝撃が襲う。その衝撃で脳が覚醒したようだ。目を開けるとそこにはもう一度、蹴ろうとしているユリカがいた。
「ま、待って、起きたから、起きたから蹴らないで。」
「やっと起きたわね。早くスーカナに向かうわよ。さっさと支度して。」
僕は朝食を食べながら出発の用意を始める。勿論、ユリカの分の朝食も用意した。今日と昨日のことからどうやらユリカは、盗賊などの種とは別のようだ。もしそうなら、今頃僕は一文無しになっているか、奴隷として売られるのを待っているはずだ。
朝食を終えた僕らはスーカナの街を目指して街道を歩く。その間ユリカの質問に答えるかわりに、ユリカのことを教えてもらった。簡単にまとめると彼女は、こことは違う世界に住んでいたが、神様によってこの世界に召喚されたという。その際、神様にお願いをして、人族ではなく猫人族に転生してもらったようだ。なぜ猫人族なのかは教えてくれなかった。ユリカが神様に召喚された理由はユリカにも分からないらしい。あと、あの変な服はあまろりすたいる?という向こうの世界で流行っていた服装なんだとか。ユリカの不思議な服装や言動などの説明はつくが、流石に全て信じる事はできない。
「着いたよ。ここがスーカナだよ。」
日が傾き始めた頃、僕達はようやくスーカナに着いた。スーカナの周りは石壁に囲まれており、魔物が侵入できないようになっている
「おい、お前ら街に入るなら早く入れ。もうすぐ門が閉まる時間だ。それまでに入らなかったら明日の朝まで門の前で待つことになるぞ。」
僕らが石壁を見上げていると、門の前にいる衛兵が声をかけてきた。街に出入りする人を管理する門番なのだろう。
「門の前で野宿とか無理!早く入るわよノエル。」
「ちょっちょと待ってよ。いきなり、引っ張ったら危ないじゃないか。」
ユリカが僕の腕を引っ張りながら歩き出すので僕はバランスを崩して転びそうになったが、なんとか踏ん張ることができた。
門番の人に冒険者ギルドの場所を聞くとこの大通りを真っ直ぐ歩いていくと左手にあるそうだ。お礼を言ってからギルドに向かう。ギルドには大柄な男性が多く、受付の横にある飲み屋で騒いでいる。受付には長い列ができており、覗いて見ると、女性の方が受付をしていた。その横の受付は男性の人がおり、誰も並んでいなかった。
「ノエル、あっちの受付が空いているわ。早く冒険者になりにいきましょう。」
受付の男性に冒険者になりたいと言うと、年齢を聞かれた。そういえば、ユリカに15歳以下は登録できないことを言っていなかったことを思い出し、ユリカの方を見ると16歳だと言っていた。
「えっ?ユリカ16歳なの?そんなに小さいのに」
発言したあと自分に失言に気づいたが既に遅い。ユリカが笑顔で微笑んできたが目が全く笑っていなかった。そのあとはユリカの方が年上だとか僕の身長も低いだとか15歳とか嘘だとか他にも色々言われた。そんなトラブルもありながらも僕達は冒険者の証であるプレートを貰い、無事に冒険者になることができた。
冒険者のプレートにはAランクからFランクまでありオリハルコン、ミスリル、金、銀、銅、木となっている。
「あぁ〜これで私も冒険者よぉ〜」
ユリカが武器を振り回しながらくるくると回っている。
「ユリカ、危ないから武器を振りまわしたら駄目だよ。」
「えっ武器?あっ、もしかしてこれの事かしら?これはね傘と言って雨に濡れないためにさすものなのよ。武器じゃないから大丈夫よ。」
ユリカが傘というものをいじるといきなり音を立てながらピンク色の布が開いた。それを肩にもたれさしてまた、くるくると回る。
「と、取り敢えず、武器じゃないとしても危ないから振りまわしたら駄目だよ。あと、そろそろ落ち着いて。周りからの視線がイタイよ。」
僕は傘の音に驚きながらもユリカを大人しくさせながら苦笑いを浮かべる。
「今日泊まる宿も見つけないといけないし、早くしないと街の中で野宿することになっちゃうよ。」
「それもそうね。そうと決まれば宿を探すわよ。ねぇ〜おっちゃん?安くて豪華な宿はどこかしら?」
ギルド受付の男性にユリカが問いかける。安くて豪華な宿とは、なんとも我儘な主張だ。
「おいおい、おっちゃんはよしてくれ。これでもまだ25だぜ?俺の名前はゲルだ。これからはゲル兄って呼んでくれてもいいぜ。」
「あらそう?それでゲルさんや、早くいい宿を教えてくれないかしら?」
「そうだな。このギルドの2階にギルドが運営している宿があるんだが、そこを使えばいい。朝晩のメシ付きだ。今日は特別にタダにしてやるけど明日からはちゃんと払ってくれよ。メシがまだならこの後一緒にどうだ?色々と冒険者のことを教えてやる。」
「本当ですか?それは助かります。ぜひお願いします。」
「おぉ、そうか。もうすぐ、仕事が終わるからこの部屋で待っていてくれ、後で呼びに行く。」
そう言ってゲルさんは2階の部屋の鍵を貸してくれた。
「じゃー早速部屋に突撃よ。ノエル行くわよ〜。」
「走ったら駄目だって。あっ、ゲルさん、騒がしくしてすみません。では、部屋で待ってますね。」
ゲルさんに別れを告げ、ユリカの後を追い、部屋まで行く。部屋の前でユリカが待ちきれないとばかりに目を輝かせてこちらを見てくるので、すぐに鍵を開けてやった。
「やったー、これでお風呂に入れるわ〜。……って、お風呂がないんだけどぉ〜〜〜〜。」
ユリカの声が建物中に響くのを感じた。僕だけではなく飲み屋で飲んでいる冒険者の人達もびっくりしているはずだ。きっと。
「ユリカ煩いよ。静かにしないと迷惑でしょ?」
「だってだって、お風呂が無いんだもん。お風呂がぁ〜〜。」
まるで親にお菓子を強請る子供のようにユリカが僕のズボンを掴みながら上目遣いに呟いてくる。その目には涙が光っていた。お風呂が無かったことが相当ショックだったらしい。
「ユリカの世界ではお風呂が無いことは普通じゃないのかもしれないけどね、こっちの世界では水は貴重だからね。お風呂にはほとんど入らないんだ。お風呂に毎日入るのはお金持ちの貴族ぐらいだよ。」
それを聞いたユリカは一瞬凍りつき、まるでGと呼ばれる虫を見たシャルのような目つきで僕から離れていった。
「ユリカ、」
「来ないで、近寄らないで、もぉ嫌!こんな世界。あのクソ神を呪ってやる。いつか殺してやる。」
ユリカの目は死んだ魚の様な目をしていた。
「お、落ち着いて、この世界には術式っていうものがあってそれで体や服を綺麗にできるだよ。だからそんな絶望したような目でこっちを見ないで。」
「そ、そうなんだ。じゃーそれでいいからやり方を教えて。」
すでに投げやりになっているユリカに術式のやり方を教えてあげる。
「意識を集中して、綺麗になった服や体を想像するんだ。そして、指を鳴らすと。」
綺麗になっただろ?とユリカに訴えかけると、まるで、信用していない目線を返された。
「なんも変化がない気がするんだけど?」
「じゃ、じゃぁこれを見て。」
僕は慌てて、炎をイメージして指を鳴らす。指を鳴らした直後、人差し指の先に小さな火の玉が浮かぶ。それを見てユリカが目を大きく開けて驚いている。
「なんだ、術式って魔法のことだったんだ。イメージして、指を鳴らすだけとか言うし、何のエフェクトもないから気づかなかったわ。」
そう言うとユリカは指を鳴らし、術式の練習を始めた。