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箱舟ランデブー  作者: 狐尾兎 悠
第1章
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1.1 旅立ちの日

魔物に襲われてから7年が経ち15歳の誕生日を迎えた。僕は身長も伸び148センチになっていた。

「ノエル、どうしても行くのかい?せめて騎士団が来るまでーー」

母が心配そうに言うのを遮り、答える。

「あの日から今日までずっと待っていたんだ。僕は冒険者になりに行くよ。」


冒険者に登録できるのは15歳以上という決まりがある。そのため僕は、7年間修行をしてきた。しかし、ノルエールは小さい村なので冒険者ギルドがなく、スーカナという街まで行かなければならない。冒険者ギルドがないノルエールのような村には、月に1度王都直属部隊である騎士団が村の周りの魔物たちを討伐しにくる。この騎士団が来るのは1週間後で母は、騎士団に同行してもらえと言う。


騎士団は隣村のカルテットを経由してスーカナに戻る経路だ。ここからカルテットまで2日、カルテットからスーカナまでは3日もかかる。ノルエールからスーカナまで真っ直ぐ向かえば2日だ。この道は商人がよく使う道で魔物もほとんどでない。たまに盗賊まがいなチンピラがでる程度なので、わざわざ1週間も待って騎士団に同行するメリットはほとんどない。


「僕は早く冒険者になって、彼のようになるんだ。」

彼とはもちろん、7年前に助けてくれた黒いローブの男のことである。僕は両親に別れを告げたあと修道院で見習いをしている妹のシャルに別れを告げにきていた。

「お兄ちゃん、もぅ行くの?そっか、私のことは心配しなくて大丈夫よ。お兄ちゃんはお兄ちゃんのやりたいように頑張ってね。でも、途中で諦めたりしたら許さないからね。」


シャルはいつも、自分勝手な僕を笑顔で応援してくれる。だが、今日のシャルは、涙を流していた。それをシャルは目にゴミが入ったみたいだと笑って誤魔化していた。

「じゃぁシャル、行ってくるよ。必ず帰ってくるから後は頼んだよ。」


僕は、シャルに心の中で今までの事も含め謝罪し、修道院をあとにする。村の出口には、村のほとんどの人が集まっていた。とは言ってもこの村は60人程しかいないので、皆家族のようなものだ。僕が5歳の頃、商売をするために村を去ったエル兄の時も村の皆が集まっていた。エル兄は面倒見がよく、村の子供たち皆のお兄ちゃんだった。僕にとっても大切なお兄ちゃんで、あの時はテルカと一緒に大泣きしたっけ。

そんな事を思い出しながら僕は皆に別れを言って街に続く街道を歩き始めた。


荷物は彼がくれた短剣に防具、銅貨5枚に食料2日分だ。保存のきく干しイモがメインだ。銅貨は7年間コツコツ貯めたお小遣いだ。噂によると50キロ程歩いたところに川があり、この街道を通る商人はそこで野宿するようだ。


噂通り川が見えてきた。しかし、辺りには誰1人いない。ノルエールには滅多に商人が来ない。だかは、誰も居なことは想定内だ。野宿とは言ってもテントや寝袋は高くて買えなかったため、村の人達から使わなくなったロープを貰ってきていた。直接土の上で寝ると身体を痛めると村の衛兵の人に聞いていたので、小さい頃テルカが網状に編んだロープを木に結んで寝ていた事を思い出し、同じようにロープを編んだものを作ってきた。


寝床の確保も終わり食事をしていると後ろから枝の折れる音がした。僕はとっさに、前方に飛び退き、音がした方を凝視する。右手で短剣の鞘を握り、いつでも抜けるようにしていると、気の抜けた声が聞こえてきた。

「あの〜、ここはどこでしょうか〜?」


木の陰から現れたのは130センチぐらいの獣人の女の子だった。耳と尻尾が生えており、服装は見たことのない、ひらひらした服だ。上衣とスカートを繋げたような形をしている。ピンク色を基調としており、様々な模様が描かれている。靴は底が分厚く歩きにくそうだ。さらに、足を覆うように爪先から膝の上まで布に覆われているようだ。頭や背中に大きなリボンがついている。布に包まれた棒は武器なのだろうか?


「ここは、ノルエールとスーカナを結ぶ街道だよ。君は一体何者なの?」

質問に答えながらも警戒は怠らない。ほとんどでないとは言っても魔物がでる危険がある場所に小さい女の子が1人でいるはずがないからだ。

「ノルエールとスーカナ?ん〜?知らない地名ね、これは成功したのかな?」

と、よく分からない独り言をぶつぶつと呟きながら何か考えているようだ。考えがまとまったのか、こちらに笑顔を向けてきた。

「私は猫人族のタマキ・ユリカです。よろしくね。この世界って冒険者ギルドとかあるのかな〜?あっ、これってもしかして、ハンモック?いいなぁ〜。ねぇーねぇー寝てみてもいい?」

「え、あ、うん。」


いきなりテンションのあがった彼女の勢いが凄まじく、つい返事をしてしまった。名前だけではなく、家名を名乗っていたので貴族なのだろうか?しかし、貴族の女の子がこんな辺境まで1人で来るとは思えない。それに、この世界がどうとか言っていたし、警戒は怠らない方がいいだろう。


「ねぇ君は何でここに来たの?」

「あっ、私のことは、ユリカでいいよ。えっと〜、君の名前まだ聞いてなかったわね」

「僕の名前はノエル。もう一度聞くけど君は何でここに来たの?」

「だから、ユリカだって。」

ユリカはハンモックの上で寝転がりながら睨んでくる。

「ユ、ユリカは何でここに?」

「私は冒険者になって、世界を救うために来たのよ。」

「えっ?」

「私はこの世界の救世主になるの。だから一刻も早くギルドに案内してって、えっあ、、きゃぁぁー」

ハンモックの上でポーズをとろうするユリカだが、不安定な場所で立ち上がろうとしたため、バランスを崩して顔から地面に落ちてしまった。


「あのー?大丈夫?」

「あいたたた、大丈夫、大丈夫。ごめんなさい。少し、テンションがあがっちゃったみたいで。それで、あの〜出来れば冒険者ギルドまで案内してほしいんですがいいですか〜?」

ユリカは、鼻を抑えながら立ち上がる。見たところ出血はないし、大丈夫のようだ。

「僕もギルドに向かう途中なので、それはいいんですけど……。」

素直そうな女の子だが、正体が分からない以上ユリカの言う事をまるまる信じることはできない。


「そっか〜、よかった。そうと決まれば早くギルドに行くわよ。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。今から行くのは危ないから今日はここで野宿だよ。」

「えっ?ここからそのーす、す?すー?そうそうそれ、スーカナ。そこまで遠いの?」

「ここからはあと50キロぐらいあるよ。ここはちょうどノルエールとスーカナの中間地点なんだ。」

「そ、そう。なら仕方ないわね。」


そう言うとユリカはハンモックに登りながら私はここで寝るわと言い、寝てしまった。ロープは残ってないし、流石に女の子を地面に寝かすわけにもいかず、僕は、鞄を枕にそのまま寝ることにした。最初は盗賊か何かで寝たところで荷物を奪われるのではないかと警戒して起きていたが、いつの間にか寝てしまったようだ。


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