プロローグ
あの日、僕は絶望した。理不尽なこの世界に……。
ノーディア王国の辺境にある農村、ノルエールにノエルという8歳の少年が住んでいた。ノエルは両親と双子の妹と共に住んでいた。村の土壌は荒れており、収穫も僅かだ。そのため、ノルエールは貧しく、王都からの税収に苦しんでいた。
僕は今日も村から10分程歩いた所にある森まで来ていた。森には山菜やキノコなどが自生しており、貧しいこの村では貴重な食材なのだ。
「おーい、ノエルゥー。今日は遅かったな。」
向こうから薄い布を縫い合わせたシャツに短パン姿のテルカが走って来た。この村では、布は高級品で、村のほとんどの人がボロボロのなったシャツを補強しながら着ている。
「やぁテルカ。今日も元気だね。さっきまで畑の仕事を手伝っていたんだよ。」
「今の時期は忙しいもんな。俺んとこも手伝え手伝え煩いんだよな。って、そんなことより、あっちに山菜が大量に生えてたんだよ。」
テルカはそう言うと立入禁止の看板が立っている先を指差した。
「まさか、森の奥まで入ったの?魔物がでるからダメだっていつも言われているじゃないか。」
僕はテルカの言動に驚きつつも半ば呆れていた。テルカの突拍子の無い行動はいつものことだからだ。
「ちょっとぐらいなら大丈夫だって。それに、魔物を見つけたらすぐ引き返いしたら問題ないだろ?」
胸を張って自信満々に言うが、大丈夫な要素が見つからない。
「先に魔物に見つかったらどうするんだよ。それに逃げたとしても村まで魔物が追ってきたらどうするの?少しは考えて動きなよ。」
「またお得意の説教か?ちょっとぐらい、いいじゃねーか。折角教えてやったのによ。お前が来ねーんなら俺1人で全部もらっちまうからな」
そう言うとテルカは森を奥へと歩いて行ってしまった。本来なら、1度村に戻って村長に知らせなければならないのだが、山菜の誘惑や好奇心に勝てるわけがなく、僕はテルカの後を追って森の奥へと進んだ。
「待ってよ。わかったから、僕も行くから。」
「ノエルならそう言うと思ってたぜ。」
テルカはこちらを振り返り悪戯な笑みを浮かべる。それを見て僕は苦笑いを返す。
森を10分程歩くと開けた場所が見えてきた。
「ノエルあそこだ。」
そういうとテルカが駆け出した。その後を追って、僕も開けた場所に向かう。
開けた場所には、テルカが言っていたように、山菜が不自然な程多く自生していた。
「スゴイよテルカ。こんなに山菜があったらしばらくはご飯には困らないね」
「おうとも。俺について来て正解だっただろ?」
得意げに言うテルカを肯定すると、少し照れながらも当たり前だと胸を張る。
竹で編んだ背負い籠がいっぱいに山菜を採り悠々と帰路に着こうとした時、異変に気付いた。まだ、昼過ぎにも関わらず辺りは薄暗く静まり返っていた。
「ねぇテルカ?なんだかおかしくない?」
「おかしいって何がだよ?」
テルカはこの状況をおかしく思っていないようだ。
「まだ、昼過ぎにしては暗くて不気味だし、森が静かすぎるよ。それに、こんな所にかたまって山菜が自生しているなんておかしいよ。」
「なんだよ。変なこと言うなよ。少し曇ってきただけだろ?それに、誰も採りに来ないから山菜が大量に生えてるだけだろ?お前は昔から考えーーーー」
テルカの言葉を遮ったのは初めて聞く悍ましい咆哮だった。僕とテルカは既に10数匹の魔物に囲まれていたようだ。魔物は赤い目に狼の様な姿をしている。ゆっくり近寄りながらこちらの様子をうかがっているようだ。
「テルカ、どうしよう。このままだと奴らのエサになっちゃうよ。何か奴らの気をそらせる物とか持ってない?……。テルカ?聞いてるテルカ?」
テルカの方に目をやるとテルカは怯えた表情でパニックなっていた。今にも1人で魔物の群れに飛び込んでいきそうなテルカを見て、僕は、言葉に詰まった。いつも元気でどんなことにも動じなかったテルカのこんな姿を見たのが初めてだったからだ。
「テ、テルカ……。テルカ落ち着いて、変な気を起こしたらダメだよ。2人でやれば逃げる隙ぐらい作れるは……テルカ駄目だ!」
「うぉぉぉぉぉー」
テルカを落ち着かせようと、声をかけ続けたが、テルカの耳には届かなかった。そして、テルカは雄叫びと同時に正面の魔物に突撃していった。その突撃を魔物は飛び上がって避けると同時に前足でテルカを上から押さえつけた。
それを合図とする様に周りの魔物たちがテルカと僕に一斉に襲いかかってきた。僕の方に来たのは幸いにも後方に陣取っていた魔物だけだったので前方に飛び込むことでなんとか躱すことができた。しかし、抑えつけられていたテルカは逃げることができずに、魔物に引き裂かれていた。
「テルカァァァ。」
テルカは腕や足を噛みちぎられ、酷い有様だった。それを見た瞬間、体中の力が抜け動けなくなってしまった。
あぁー僕もここまでか。親友を助けることができなかった悔しさや、殺されることへの恐怖、家族への申し訳なさなど様々な感情が涙となって流れていく。そして、永遠の眠りにつくために目を閉じた。
不意に風を感じに目を開けるとそこには既に魔物の姿はなかった。魔物代わりに黒いローブを纏った人物が立っていた。魔物がいなくなったからか、辺りは明るくなっていたが、太陽の反射で男の顔は見えない。背は150センチぐらいだろうか120センチと同い年の中でも背の低い僕からするととても高く見える。
「すまない。君の友は助けられなかった。」
彼は、哀しそうな顔で謝罪してきた。僕はとまらない涙を何度も何度も拭いながら座った体勢のまま彼に言う。
「いえ、ここに足を運んだ僕らが悪かったんです。テルカが死んだことは悲しいけど僕はあなたに助けてもらいました。ありがとうごさいます。だから、僕なんかにそんな哀しそうな顔で謝らないでください。」
僕がそう言うと彼は何か確信したかのように頷き黒い空間から短剣や胸当てなどの防具を取り出した。
「ノエル、君は強くなれ。友を、家族を、君の守りたい者を守れるように。その武器や防具はお前にやる。」
そう言うと彼は黒い霧に包まれるように姿を消した。彼が何者か、何故僕の名前を知っていたのか、疑問はある。しかし、不思議と彼の言葉を聞くと、強くならなければならないと感じる。まるで、それが僕の使命であるかのように。
はじめて小説を書きました。不慣れな部分が多く、おかしな表現や言葉などが多々あると思いますが大目にみていただけると助かります。