乱入 → 巨漢
「とりあえず、魔晶はお預かりして換金してきます。これだけあれば鑑定紙の代金も登録料も賄えると思いますので、メイさんの鑑定と登録の準備もしてきます。それから、ダンジョン発見の手紙についても上司に報告しておきます。そのうえでセインツさんが戻って、ダンジョンの確認が取れれば報奨金として金貨三十枚が支払われ、ダンジョンに名前を付ける権利が与えられます。あまり変な名前だと拒否されますが、よほどじゃなければ通りますので今から考えておいてください」
「は、はい」
「それから、私がいない間は部屋から出ないでください。ギルドを出るときは私がご案内します。泊まるところなんかは……まだですよね。それではそちらも私のほうで斡旋させてもらいます。ご安心ください、人族以外にも理解のあるいい宿がありますので、そこでならフードなんかなくても自由に過ごせますから。それではちょっと行ってきますね」
「よ、よろしくお願いします」
なにかが振り切れてしまった感じのレナリアさんが鼻息荒く(いや、さすがに鼻息は出てないからイメージだけど)部屋を出ていくのを僕たちは唖然とした顔で見送るしかなかった。その後もレナリアさんの勢いに押され、なんとなく会話もないまま時間だけが過ぎていたところにようやくリミが口が開く。
「なんだか、凄い人だったね。りゅーちゃん」
「そうだね、最初はクールで落ち着いた人だと思ったんだけど……」
「そうですね、あんなに熱い人だとは思いませんでした」
一応、手続きをしている間はリミとシルフィは話さないようにしようと決めていたから、静かにしていたふたりもやっぱりレナリアさんの変貌っぷりには驚いていたらしい。
「でも、リミやシルフィのことを知っても嫌な顔をしないし、むしろ助けてくれるみたいだからいい人だと思うし、レナリアさんに話を聞いてもらえたのは正解だったかもね」
「でも……宿の手配までお願いしてしまっていいのでしょうか?」
「いいんじゃねぇの。むしろやらせてやってくれ。あいつがあんなにやる気になっているのを見るのは冒険者を引退して以来初めてなんだ」
え?
ちょっと待って! レナリアさんの事情もすごい気になるけど、それよりも! なんでいつの間にかテーブルに座って俺たちの会話に参加しているの? しかもこんな巨漢の男の人が……いや! いやいやあり得ないよ! こんな大きな人が部屋に入ってきたら気が付かないわけがない!
「きゃ、だ、だれ! おじさん!」
「おじさんはこれでも冒険者ギルドで二番目に偉いおじさんなんだよ」
『副ギルドマスターか……さすがに一筋縄でいきそうもないな』
タツマが動揺しているのがわかる。そんなに強いのかな?
名前:ゴート
状態:健常
LV:47
称号:副ギルドマスター(効果なし)
ダンジョンシーカー(ダンジョン内でステータス微上昇)
守り耐える者(防御に関するスキル効果上昇)
年齢:40歳
種族:人族
技能:槌術4/大楯術5/頑丈3/威圧2/挑発4/豪腕3/指揮2/明暗3
耐性(全属性2/物理4)
固有技能:誘導(一瞬だけ任意の場所へ誘導する)
強い……とにかく守りが堅い。【大楯術】がレベル五だし、【頑丈】もある。それに耐性の【全属性】ってたぶん魔法全般に対する耐性があるってことでしょ。【物理耐性】も高いし、戦うとしたらどうやって戦えばいいんだろう。
『リューマ、やっかいなのはそこじゃねぇ。やばいのは【誘導】だ』
『え? でも誘導されても一瞬でしょ?』
『違う、さっき俺たちは全員あいつが入ってきたことに気が付かなった。それはなぜだ!』
いつになくシリアスなタツマに僕も真面目に考えてみるけど、ゴートさんが持っているスキルで僕たちから気付かれないようにするものはないような……。
『馬鹿! 答えは【誘導】だって言ってるんだからそこから考えろっつの』
『あ、そうだった。でもさっき僕たちは座ったままだったし、どこにも誘導されなかったよ』
『おまえ、本当に俺の知識の一部を受け継いでいるのか? 問題は奴の【誘導】が≪なにを≫誘導できるのかってことだ』
『え? だから僕たちをどっかに誘導するんじゃないの?』
『違う! いや、間違ってはいないがそれは表向きの上っ面な使い方だ。あれだけ簡単に不意を突かれるってことは視覚、聴覚なんかの五感は勿論、注意力なんかの意識まで誘導されている可能性が高い』
「えっと……他人の五感と意識を強制的にあさっての方へ誘導して、自分のいる場所をあらゆる意味で死角にするってこと?」
『ばっ! おまえ、なに口に出してんだ!』
『あ……』
タツマに指摘されたときにはもう遅かった。副ギルドマスターは僕の顔を恐ろしく怖い顔で睨んでいた。そりゃそうだよね、あんな訳のわからない能力をいきなり解明するような人を警戒しない人なんていない。見破ったのはあのスライムですよ、とか言っても絶対信じてもらえないだろうし。やばいな、戦いになったりするか? 武器を出したほうがいいだろうか……と思って身構えていたら突然ゴートさんの表情が笑顔に変わる。
「ほう……ほう、ほう! 凄いな、初見ですぐに俺の強引な消失を見破ったのはお前が初めてだ。たいしたもんだな。それにどうやら優秀な【鑑定】も持っているようだしな」
うぐ、完全に目を付けられた上にいまの言葉だけで【鑑定】持ちなのがばれた。やっぱり街の人は凄い、僕たちなんかはまだまだだ。
「さっき、外でレナリアに聞いたんだが、ポルック村出身なんだって?」
「……はい、そうです」
「なるほど、なるほど……もうひとつ教えてくれ。お前さんが腰につけているポーチ、アイテムバッグだよな」
僕は思わずポーチを隠すように抑える。さっきシルフィのは魔晶を出すときにばれちゃったみたいだけど、こっちはアイテムバッグだと思われるようなことはしてなかった。このサイズのアイテムバッグは希少だって父さんは言っていた。それに普通にしていればアイテムバッグだと疑われる可能性はほとんどないって。それなのに。
「ああ! 別に警戒する必要はない。取り上げるつもりもないし、触れ回るつもりもない。俺が知りたいのはお前さんがそれを誰からもらったかってことだけだ」
「え?」




