ゴブリン → 討伐
「お前の相手は僕だ!」
まず最初に牽制として、声に【威圧】のスキルを乗せてモンクに叩き付けてやった。
【ウギィ!】
余裕をかましていたモンクはレベル2の【威圧】を受けて、顔を引き攣らせている。スキルを持っていても僕自身があまり威圧するのが得意じゃないせいかあまり効果は期待できないスキルなんだけど、少なくともあいつの余裕ぶった顔を引き攣らせる効果はあったみたいだ。取りあえずはそれで十分!
僕は動きの鈍っているうちに一気に槍の間合いまで踏み込むと、槍をモンクの右腿と左腿に続けて突きいれる。
速度と狙い重視だったせいと、思ったよりも奴の筋肉が固くて深くは刺さらなかったけどこれで動きを止められるはず。予想外の【威圧】で戸惑っている間に急所を突けば勝負は付いていたと思うけど、生きている相手からしか【技能交換】できない縛りがあるからまずは機動力を削いだ。
でも、その痛みのせいで完全に【威圧】影響から脱したモンクに左腕を狙った三つ目の突きは手の甲で打ち払われてしまった。さすがに【格闘】のレベルが3なだけあって手強いけど、僕の【槍術】は足を奪われた状態で止められるほどやわじゃない。
打ち払われた槍をその勢いのまま身体を起点に流れるように回転させ、手の届きにくい右足首を打つ。このときに足を払いにいけば相手を転ばせることができるけど、ちょっと斜めに振り下ろすように角度を付けると……。
グシャ
足首を砕くことができる。いきなり狙ってもなかなか成功しないけど、機動力を奪った状態なら比較的容易に狙える。
足首を砕かれたモンクは濁音の多い汚い叫びをあげながら右ひざを着く。こうなればもう僕のものだけど油断はしない。まだ抵抗の意思を失っていないモンクに幾つかは弾かれるが、両腕を狙った突きが次々と刺さりモンクの腕の自由を奪っていった。
最後に槍の柄を奴の肩口に上から叩き付けてうつぶせに倒すと、背中を踏みながらモンクの後頭部に手を添える。まずは……。
【技能交換】
対象指定 「回復魔法1」
交換指定 「解体1」
【成功】
こっちは問題ない。次が上手くいくといいんだけど……。
【技能交換】
対象指定 「格闘3」
交換指定 「格闘1」
【成功】
おっ運がいい。成功率としては36%だったけどうまくいった。同じスキルはふたつ持てないからこれが失敗したら、こいつは一度このまま放置するしかなかった。これでとどめをさせる。
槍をモンクの首に突き刺して確実にとどめをさしてから、隣で戦っているはずのリミを見ると予想通りお互いに決定打にかける戦いを繰り広げていた。いずれリミが疲れてくると均衡が崩れるかもしれないがまだ大丈夫そうだ。
「シルフィは!」
振り返ってみるとシルフィが弓を構えている姿が見える。だが、コボルトたちに取り囲まれているような気配はない。どういうことかと思って扉のほうに視線を移すと……。
「そうか! 土の精霊魔法か」
おそらくゴブリンナイトの【指揮】をもってしても、知能の低いコボルトには簡単な指示しか出せないのだろう。せっかく数がいても「扉を閉める」という行動を全員でやっていた。それを見たシルフィはダンジョンの入口を塞いだ石柱をつくる土の精霊魔法で扉を囲うように半円上に複数の石柱を造ったらしい。
その柱に逆に閉じ込められたコボルト、だがさすがに全部という訳にはいかなかったようで、そこから漏れてしまったコボルトをシルフィが弓で処理していたようだった。そっちの掃討が終わればシルフィもこちらの応援に回ってくるだろう。
モフはモフで、タツマの指示のもと絶妙なヒットアンドウェイを繰り広げておりシャーマンに呪文を唱えさせる隙をあたえていない。
これなら安心してリミの援護にいける。
「リミ、お待たせ! 僕が剣のほうに回る。リミは盾を引き付けて!」
「わかった!」
駆けつけた僕の言葉に従ってリミがナイトの左手側に回っていく。【盾術】のほうがレベルは高いけど、攻撃を受ける危険が少ないから安全なはずだ。僕は槍でナイトの右手の剣を牽制しつつ右手側に回る。
「りゅーちゃん、気を付けて! こいつ結構力が強いから」
リミの言葉に頷きを返すと高速の連突きを繰り出す。同時にリミも双剣で攻撃を仕掛けているのが視界の端に映る。特に打ち合わせもしていないのにぴったりタイミングで攻撃をしてくれているのが嬉しい。これは長年一緒に過ごしてきたからこそわかるという類のものだと思うから。
そして、両側からこれだけ息のあった攻撃を仕掛けられたら亜種といえども所詮はゴブリン。いいスキルを持っていても対処しきれない。数合と打ち合わないうちに剣を飛ばされたゴブリンナイトは最初の頃の尊大な態度はどこにいったのか、小さな盾に隠れるように縮こまるだけになってしまった。
思ったより簡単に勝負がついたことに多少拍子抜けしながらも、モンクと同じように無力化して交換をしかけようとしたところでシルフィが駆けつけてきた。うん、丁度いいから先に渡しておこう。
「リミ! リミはモフを助けてあげて。魔法さえ使わせなければ問題ないから倒しちゃってもいいから」
「うん、いってくる」
「シルフィはちょっと手を貸してくれる?」
「あ、はい」
足の下で観念したように動かないゴブリンナイトを押さえたまま差し出されたシルフィの手を取る。
【技能交換】
対象指定 「採取1」
交換指定 「格闘3」
【成功】
よし、【格闘】はいざというときの護身として絶対にあった方がいい。特に普通の金属武器が装備出来ないシルフィはなおさらだから、一番高いレベル3の格闘を持っていてもらいたい。
「うん、成功。シルフィもあっちをお願い」
「はい、わかりました」
さて、あとはこいつか。まずは【指揮】かな。
【技能交換】
対象指定 「指揮1」
交換指定 「採取1」
【成功】
次は【格闘2】か【盾術3】だけど……出せるスキルがあんまりないんだよね。【手当1】【掃除2】【料理2】くらいなんだけど……できれば個人的には【料理】は残しておきたい。レベル1差なら6割成功するからいけるはず。
【技能交換】
対象指定 「格闘2」
交換指定 「手当1」
【成功】
よし! さっきのモンクのときといい今日はキてる! このまま盾もいけ!
【技能交換】
対象指定 「盾術3」
交換指定 「掃除2」
【失敗】
あ! ……でもこういうこともある、仕方ないか。リミのが料理レベル高いしね。
【技能交換】
対象指定 「盾術3」
交換指定 「料理2」
【成功】
よかった、うまくいった。でも高レベルのスキルを持つ魔物を見つけても、これだとなかなか交換できないかも知れない。なにか考えないとな……タツマに相談してみるか。
そんなことを考えつつもしっかりとゴブリンナイトにとどめをさしてから、シャーマンの方を確認したけど結局ひとつも呪文を完成させることができず、リミにとどめをさされたらしいシャーマンが倒れていくところだった。
今回のわらしべ
『 解体1 → 回復魔法1 』
『 格闘1 → 格闘3 』
『 格闘3 → 採取1 』
『 採取1 → 指揮1 』
『 手当1 → 格闘2 』
『 料理2 → 盾術3 』




