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追跡 → 解体

「さあ、着いたぞ。ここからは油断するな」


「はい」


 お父さんと他愛もない話をしながら早足でたどり着いた『狩人(かりびと)の森』の入り口。


 森に入るとなるべく静かにしないといけないから事前に出来る注意は今のうちにしておくらしい。無駄話をしてると獲物に逃げられちゃうかもしれないから、今ちゃんと聞かなきゃいけない。


「なにかあればまずは手で合図をする。ちゃんと合図は覚えているな」


 僕は頷く。森の中で声を出さずとも意思疎通が出来る様にいくつかのハンドサインを村で決めていて、そのサインを完璧に覚えることが狩りに連れて行って貰う最低条件だったから必死に覚えた。


「ま、とは言っても今日は訓練だからそこまで神経質になる必要はない。分からないことがあれば遠慮なく聞け」


「はい」


 僕が返事をするとお父さんは行くぞと声をかけて森へと入って行く。凄い!草とかいっぱい生えてる所に入っていくのにほとんど音が出ない。僕にはまだそんな動きは無理だけどなるべく音を立てないことと遅れないことだけを気を付けて後ろに続く。


 しばらく森の中を歩くと、前を歩くお父さんがハンドサインで『とまれ』と合図を出したので足を止める。お父さんの手が足元を指差しているのを見て近づいて覗き込む。するとそこには小さく窪んだ地面があった。


「わかるか?これは鹿の足跡だ。しかもその脇に落ちている(ふん)はまだ新しい。つまりまだこの辺にいるってことだ。ここから先はお前が追ってみろ。私の【気配探知】では既にその鹿は捕捉しているから失敗しても逃がすことはないからな」


 抑えた声のお父さんに向かってはっきりと頷きを返すと、地面の足跡を追って歩き出す。出来る限り気配を消し、鹿の残した僅かな痕跡を探していく。知識としてはいろいろ教えて貰っていたけど実際にやるのは初めてだったので、大分手間取ってしまった。


 でも、慎重に足跡を追いかけて10分程、森の中を進むと木の影から鹿と思しき獣のお尻が出ているのを見つけた。


(やった!みつけた!)


 内心で喝采を上げ、思わず声を出したいのを我慢して後ろから付いてきているお父さんに獲物を見つけた時のサインを出す。


 するとお父さんの大きな手がよくやったと言わんばかりに頭を撫でてくれる。お父さんは静かに一歩前に出ると持っていた槍を構えてなんの躊躇もなく投擲した。


 投げられた槍は狭い木々の間を綺麗に抜け鹿の腰骨辺りを射抜いた。あそこに当たったら多分腰骨が砕けているので息があっても逃げ出すことは出来ない。下半身しか見えてない状況で中途半端に脚を攻撃しても後ろ脚に傷を与えただけでは逃げだされる可能性がある。


 ちゃんとダメージを与えていればいずれは力尽きるので仕留められるけど手負いの獣が森を走り回るだけで、次の獲物は警戒心を強めてしまうから本来は良くないらしい。だから、可能なら頭や首を狙う。それが無理ならなるべく移動力を奪う攻撃を選択するんだと教えて貰った。


「よし、行くぞ。解体のおさらいだ」


 お父さんは剣術をメインにしていた時は狩りの時だけ弓を使っていたみたいだけど、スキルトレードで槍がメインになってからは槍を投げた方が正確で仕留めやすくなったみたいで、今弓は使っていない。飛距離の問題はあるみたいだけど、【気配探知】で先に相手を見つけられる上に森を歩く技術に長けたお父さんなら比較的簡単に投げ槍の有効射程に入れるらしい。


「あ、結構大きい。やったねお父さん」


 仕留めた鹿の所に行くと、鹿は既に動かなくなっていた。ちょっと悲しいけど、僕達が生きていく為には仕方がないと僕だって分かる。だから感謝の気持ちを忘れずになるべく無駄なく利用してあげるのが礼儀だって狩人の人達はみんな言っている。僕もそう思う。


 そして、そのためには綺麗な解体は絶対に必要な技術だと思う。今までも村で家畜を解体する時とかには必ず一緒に見させてもらって来たから僕にも【解体1】スキルがある。


 なるべく丁寧に仕留めた鹿の血抜きや解体をしていく。サイズ的には大物の部類だから、これ一頭だけでも十分な成果かな。これだけあれば村の各家庭にそれなりの量のお肉が回る。早々に最低限のノルマが果たせてちょっと一安心。


「よし、【解体】を持っているだけあってしっかりと出来ているな」


 お父さんは僕の手際を褒めながらも、解体の終わった肉や毛皮を腰に付けたアイテムバックの中に入れていく。これはお父さんが冒険者時代に迷宮(ダンジョン)で見つけたものでおよそ1000キログくらい収納できるらしい。


 この世界の重さの単位は一律『キログ』。お父さんの体重が約90キログくらいだから1000キログは大きなお父さんを10人以上も収納出来るんだ。凄いよね。僕も欲しくてお父さんにお願いしてるんだけど、そう簡単に手に入るものじゃないんだって。 


しかも、お父さんのはウエストポーチ型でこの収納力はかなり珍しいものみたいで、お父さんが愛用の武器よりも大事にしている。


「いいなぁ、アイテムバック。僕も迷宮に入れば見つけられるかな?」


「なかなか難しいだろうな。買うにしてもバカ高い金額だろうしな。……よし!じゃあこうしよう。いつか、リューがこの村を出て冒険者になる時に父さんのアイテムバックを貸してやる」


「本当?!」


「おっと大きな声出すな。それに勘違いするなよ、貸すだけだ。その後自分の力で自分のアイテムバックを手に入れたら俺に返しに来てくれ」


「うん、分かった。約束する」


「ははは、とうとう約束しちまったな。さ、それよりも解体は終わりだ。次に行こう。どうやらこの先に仕掛けていた罠に何かがかかっているみたいだから先に確認しておこう。他の獣や魔物に食われてしまう前にな」


「はい」


次回は11日0時に2話投稿です。以降1章終わるくらいまでは毎日0時更新出来ればと思っています。



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