【裏】トレーダー タツマの事情 1
タツマ視点です。
まあ、確かに同じように続く毎日に飽きていたのは間違いない。
日々繰り返される代わり映えのしない一日。
家にいれば勉強しろとしか言わない母親、浮気をして帰って来ない父親。兄を空気以下の存在のように扱う妹……
学校は学校でせっかく行っても、覇気のない教師、つまらない授業、大人たちの作った箱庭で粛々と飼われ、均一化されていくクラスメイト……
俺、須崎龍馬にとって世界とはそんなもんだった。
だから俺はその鬱屈した日常のストレスの捌け口を空想の世界に求めた。ゲーム、ライトノベル、アニメ……俺はそういったもので表現される数多の世界にこの上もなく魅かれた。
もちろん空想上の世界だってことは分かっていた。だけど別にいいじゃねぇか。
周囲から厨2病だなんだと馬鹿にされたって、この無味乾燥な世界で現実を押し付けられて生きるよりも架空の世界に思いを馳せ、いつかその世界で生きることを夢見続けたってそんなのは俺の勝手だ。
だから俺は今日も今日とて、異世界に思いを馳せる。手元の小さなスマホの画面に表示されるどこかの誰かが作り上げた架空の世界を練習台に、俺がそこへ行ったらどうやって生き抜くかをシミュレートする。
あらゆる可能性を想定しておけば、いつか自分が超常現象に巻き込まれて異世界に行くことになってもきっとうまくやっていけるはずだった。
だからその日も俺は学校から自宅への道を歩きながら予習に余念が無かった。
誰かが叫ぶ声と、耳をつんざく複数のブレーキ音、更には鳴り響くクラクションに手元のスマホから視線を上げた時には既に視界一杯にトラックが迫っていた。
ヤバい!そう、思ったが今更どうしようもない。ただ、そんな状態からでは絶対にはっきりと見えるはずもないのに、運転手の中年男が居眠りをしていたのだけは何故かはっきりと理解できた。
どんっ と激しく身体全体を叩かれたような衝撃。おそらくは即死だったんだろう、ほとんど痛みを感じる間もないまま意識はブラックアウトした。
だが、二度と目覚めることはないと思っていた俺の脳裏には
『転生準備中……Now Loading 22%』
なんの説明もなくそんな物が浮かんでいた。俺の意識は一瞬で覚醒したね。
だって転生だぜ転生!何がどうなって、どうして転生を準備しているのかなんてわかりゃしない。
この場に……場と言っても何も見えないし目を開けているのかどうかすら定かじゃないがとにかくここに説明をするような奴がいないということは、神とか女神とかそういった超常で頂上な生命体を介した転生ではないのだろう。
誰も死んだ後のことは分からないんだし、もしかしたら人は死ぬとこうして転生していくというのがデフォルトなのかもしれないしな。
『転生準備中……Now Loading 47%』
いずれにしても俺はこれからどこかに転生するらしい。再び地球のどこかに産まれるという可能性も無い訳でもないし、この俺の記憶が保持されているかどうかという保障もないのが不安と言えば不安だが、こういう場合は意思をしっかりと持つことが大事だ。
地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!地球以外に俺のまま転生しろ!…………
『転生準備中……Now Loading 98%』
さて、勝負だ運命!
『転生準備中……Now Loading 100% 転生します』
そうしてまた俺の意識はブラックアウトした。
次に意識が戻ったのはなんかちょっと狭苦しい感じの場所だった。
だが、転生準備を経たせいかすぐにここが地球じゃない世界だということが分かった。
『よっしょあぁぁ!これが異世界転生かぁ!まずはとにかく情報確認だよな』
名前: リューマ
状態: 魂の上書き中……
LV: 8
称号: わらしべ初心者
年齢: 10歳
種族: 人族
技能: 剣術2 槍術2
統率1 隠密2 調教2
木工2 料理1 手当1 解体1 掃除2 採取1 裁縫1
特殊技能: 鑑定 須崎龍馬の魂(上書き中……)
固有技能: 技能交換
才覚: 早熟 目利き
「う、うん…なんかうるさいな」
おぉ、ステータスが出て来た。どうやらこの世界の人間に転生するパターンらしいな。いろいろ確認したい事柄が多いがひとまず身体を……
『っと、まだ身体が動かないな。元々の身体の持ち主への転生がちゃんと出来てないのか?ん?……上書き中?これが終わってないのか』
「ん?……なんだろう。あ、あたまがい……いた、い」
なるほど。この上書きが終われば無事このリューマという子の中に転生が出来る訳か。しかも、どうやらスキルもたくさん持ってるっぽいからな、これからが楽しみになって来たぜ!
だけど、乗っ取り系だと既に親とかがいたりするだろうから記憶の齟齬とかがでるかもしれないな……となれば。
『とりあえずちゃんと転生終わったら、まずは記憶喪失を装って環境を把握するだろ、ステータス確認してチートがあるかどうか確認して、それを使ってどうやって最強目指すか考えないとなぁ。くぅー燃えるなぁ。マジで居眠りトラックとかおいしいアイテムだよな。まあわざと轢かれるのはダメっぽいけど』
「ぐ……やめろ!僕の頭の中で……訳の分からないことを、言うな!」
あぁ……さっきからちょっと聞こえていた声は元の持ち主の声だったか。それにしても……
『お?こいつ、結構抵抗力あるなぁ。でももう入っちゃってる以上は時間の問題でしょ。転生物としてはいきなり抵抗されるとか珍しいけど、中での力関係完全に俺のが上だし。この辺はやっぱり精神的な成長度の違いってやつですかね。俺ってばもうすぐ18だし、こいつはどう見繕っても10歳前後っしょ。年季が違うってやつ?』
「なんだ……なんだ……やばい、やばい。僕が……消える。もしかしたらこれって何かの状態異常なのか?か、鑑定を……」
なにやら足掻いていて抵抗されている感じはするが問題なく上書きの力の方が強い。このまま問題なく上書きが終わるはずだ。
「なんだ?なんだこれ!……がぁ!頭が……割れる!イタイイタイイタイ!く、くそ!僕は……僕がリューマだ!お前なんかに負けてたまるか!」
おお!やるなぁ。この状態でまだこれだけ啖呵切れるって、さすが今後の俺の身体だぜ。だけど俺だってせっかくの異世界転生だ譲るつもりはないぜ。
『ムダムダ、お前の魂じゃ今の俺には敵わないって。別に身体が死ぬわけじゃないしさ、もしかしたらお前の意識も残るかもしれないじゃん。そしたら仲良くやろうぜ』
「うるさいうるさい!おまえの魂がそこに表示されている以上……きっと!」
なんだよなぁ……俺は本心から仲良くやっていきたいと思ってんのに。別にこの転生自体は俺が意図して起こしたもんじゃないし、俺がどうこう出来ることでもないから上書きが終わった状態がどんな状況になるのか分かんねぇけど、もしこのリューマって子の意識が残るようなら、その結果を受け入れる覚悟はあるぜ。
それが異世界転生を望んだ俺の責任ってもんだろ?
【技能交換】
対象指定 「再生1」
交換指定 「須崎龍馬の魂」
【成功】
その時、俺の脳裏に一瞬そんな文字が浮かび、感覚が突然切り替わる。今までは特に違和感なく慣れた五感を感じていたのに突然視覚も、聴覚も触覚も……何もかもがなんかおかしくなった。
「や、やった!……」
瞼の感触もない、妙に視界も広い。なんか頭がくらくらするような気持ち悪い視野をめぐらせて周囲を見回す。するとさっきまで自分が入っていたと思しき子供が安堵したような顔を浮かべて気を失っていくところだった。
な、なんだこれ。なにが一体どうなったんだ……俺は慌てて自分の手を見る。
ぶにょん……
しかし視界に入って行きたのは半透明の緑色の物体。
『な!なんだってぇぇぇぇぇl!なんだそれぇ!』
俺は蓋を閉められたガラス瓶の中で叫ぶ。と、同時にどこか冷静に今の状況を把握していた。つまり……
俺は異世界でスライムに転生した。
こんな感じで本編をタツマ視点で少しずつ追いかける話を入れていきたいと思っています。
ただ、第2章再開はしばらく後になると思います。
エタるつもりはないです。構想と書き溜めのお時間を頂いてまた更新しますのでブクマはそのままにして頂けると嬉しいです。




