スキル → トレード
「確かに、それはいい案だが……大丈夫なのか?」
僕は父さんとフレイムキマイラの正面を牽制しながら、考えた案を伝える。
「大丈夫かどうかは運と、僕の根性次第だと思うけど……あいつに殺された皆のためにも引けないよね」
この村の人達は皆家族みたいなものだった。全員が僕のことを可愛がってくれた。いつも僕達の悪戯を笑って見逃してくれた。そんな人たちを理不尽に奪ったこいつは許せない。
「ああ、そうだな。村の皆を守れなかった守護者なんて不甲斐ないにも程がある。せめて仇くらいはとってやらんとな。リュー頼めるか?」
「うん、やってみる。死角になりやすい後ろ足を狙うから」
「ああ、分かった。あいつの注意は引きつけておく」
父さんの一撃でフレイムキマイラが怯んだところで正面を離脱すると一度距離をとって槍を置く。ついでに剣も鞘ごと抜いてそこに置く。どうせ今の僕の攻撃がフレイムキマイラに通用しないのは分かってるから武器は持ってても仕方がない。それなら手が空いてないと触る時に困るし、身軽な方が動きやすい。
次は……水か。父さんにした時と同じように頭上に水を出して頭からかぶる。【中2の知識】の中に水をかぶって火事場に飛び込む人の情報があったからそれなりに効果があるはず。多少水で濡れた服が動きにくいけどそれはしょうがない。
魔力の方はちょっと回復してるみたいだ。体感的に軽い魔法ならまだ何度か使っても問題ないか。よし、今度はさっきとは【水術】のイメージを変えて魔法を使おう。
…………生み出した水を小さな球にして僕の両手の手首から先を水の球に包む。ちょっと維持には気を遣うけどこれでいくらかでもダメージを減らせればいい。
よし!準備はこれでいい。いこう!
「父さん!」
父さんに一声かけて、行動に移ることを伝えるとフレイムキマイラの側面から後方の死角に回っていく。ガンツさんは詳しいことは聞いてこないがこっちが何をしても指示が無い限りは今までと同じように動いてくれるみたいなのでありがたい。
グガァ……
僕の合図を受けた父さんが攻勢転じたらしく、フレイムキマイラが苛ついた咆哮を上げる。それに合わせてガンツさんが右の後ろ足を狙いに移動したので、当然俺は【隠蔽】を全開にして左の後ろ足を狙う。
そしてさすがは父さんでチャンスはすぐに来た。ガンツさんが後ろ足に一撃を加えたことで動きが止まったフレイムキマイラの顎を下から槍でかちあげたんだ。
いまだ!
一気に駆け寄って燃え盛るフレイムキマイラの左の後ろ足に左手を伸ばす。
「ぐあ!」
う……近づいただけで濡らした服の水分があっという間に蒸発していく。このままじゃ手に纏わせた水も長くは保たない。もう躊躇わずに勢いでいくしかない!フレイムキマイラの炎の中に思い切って左手を突っ込む。
ジュ……
水が蒸発する音と、皮が焼ける臭い。熱いというよりは痛い!でも……いけ!
【技能交換】
対象指定 「敏捷4」
交換指定 「解体3」
【成功】
や、やった!もう一回……は駄目か、衝撃から回復したフレイムキマイラが怒りで暴れ出した。一旦引くしかない。
左手を押さえながら地面を転がるようにして距離を取って乱れた息を整えながら、恐る恐る引き攣る左手を見る。
「く……痛い」
トレードをするために頑張ってくれた左手は肘位まで真っ赤になっていてところどころに水ぶくれが出来ている。手の平については説明するのも躊躇われるほどだ。これ水で防御してなかったらヤバかった。でも……
【敏捷4】のトレードに成功した。これで僕は今までよりも早く動けるだろうし、あいつは今まで動けていたように動けなくなる。これで父さん達の負担を減らすことができる。でも、トレードはこれからが本番だ。
火傷した手を【水術】の水で覆い直して冷やしながら、再度機会を待つ。フレイムキマイラの動きが目に見えて悪くなっているのが分かる。これなら父さんが正面でタゲを取っていてくれるだけで近寄れそうだ。
再度水を浴び直して今度は肘までを水で覆うとフレイムキマイラへと近づいていく。なんとか次で決めたい。
【敏捷4】を失ったフレイムキマイラに【技能交換】を使うチャンスを作るのはもう難しくはない。すぐにまたガンツさんと父さんの連携でその機会が訪れた。よし!
同じように【隠密】全開で後ろ足に近づいて左手を伸ばす。
「う!……ぐ」
【技能交換】
対象指定 「火無効5」
交換指定 「敏捷4」
【失敗】
今回のわらしべ
『 解体3 → 敏捷4 』
4月の更新頻度について活動報告に記載があります。良ければ一読をおねがいします。




