フレイムキマイラ → スキル
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父さんと一緒に走るとすぐにさっきヒュマスさんと話した場所に出る。だけど、戦場は更に移動しているらしくここにはフレイムキマイラはいない。
「イノヤ……俺が不甲斐ないばかりにすまん。この槍使わせてもらうぞ」
父さんは既にこと切れていたイノヤさんが握っていた槍を手に取ると再び走り出した。
「ガンツ!ダイチ!一旦引け!しばらく俺が引き受ける。リューマに治療を受けろ。リューマ、回復魔法が使えることは隠さなくていい2人を助けてやってくれ」
「わかってるよ父さん。僕の秘密なんかより村の皆の方が大事に決まってる。父さんも気を付けて、鑑定結果は叫ぶから」
父さんは僕を見てにかっと男臭い笑いを浮かべると僕の頭をひと撫でしてフレイムキマイラに向かっていった。
父さんが戦闘に参加してガンツさん達が離脱するにしてもタイミングを見てになるだろう。今のうちにフレイムキマイラの【鑑定】を。
フレイムキマイラ
状態: 健常
LV: 52
技能: 爪術4 跳躍4 敏捷4 格闘3 火術2 火無効5 威圧2
固有技能: 炎身
くそ、やっぱりレベルが高い。それに固有技能の【炎身】、あれがあいつを覆っている炎の正体か。火術魔法も使えるみたいだけどレベルは2だし、その他のスキル構成からみてもその炎を纏った身体を利用した肉弾戦を得意としているみたいだ。それに【火耐性】の上位スキルである【火無効】なんて持っている。ブレスとかに該当するスキルは見当たらない。魔物自身の種族的な特性の技はスキルとは違うということか。
「父さん!フレイムキマイラレベル52!火属性無効、火術2。爪4!跳躍、敏捷4、格闘3!肉弾戦の構成!」
僕の声が聞こえたらしい父さんが軽く手を上げて応える。そして父さんが参加したことで圧力が減ったのを見越してガンツさんとダイチさんが下がってくる。たまに矢が飛んでくることからヒュマスさんはどっかからまだ援護をしているんだろう。
「リューマくん!大丈夫なのかい君がこんなところにいて」
肩を大きく上下させながら戻って来たダイチさんの身体には無数の火傷に加えて、爪がかすめたのか出血をしている傷がいくつもある。
「はい。父さんも承知の上です。じっとしていてください気休め程度ですが治療します」
訝るダイチさんを無視して、さっき覚えたばかりの回復魔法を使う。母さんを治療した時にほとんどの魔力をつかってしまっていてまだ回復していないので大した効果は無いかも知れない。けど、そもそも父さんが2人を下げたのは治療もあるけど少し休ませるという意味の方が大きいと思う。
「ふん、リューマも漢だ。やる時はやる」
ダイチさんに僅かに遅れて戻って来たガンツさんが大槌をドスンと地面に置く。だが、その眼は父さんとフレイムキマイラから離しておらず、何かあれば飛び出す気なのがわかる。ドワーフはタフな種族だけあって体力的にはまだ余裕がありそうだ。
それにガンツさんは鍛冶業をしているせいか、火に対する耐性スキルを持っている。そのおかげでダイチさんよりもダメージが各段に少ない。パッと見は治療が必要な部分は無さそうに見える。
「すいません、ダイチさん。僕の力ではここまでです」
「いや……いつの間にリューマくんまで回復魔法を……マリシャさんに教わっていたのかい」
出血が止まり、幾分火傷の痛みも消えたのだろう、ダイチさんが驚いた顔で僕の顔を見る。回復魔法を使えることはバレてもいいけどどうして使えるのかを説明するのは時間も無いし、面倒だ。
「まぁ、そんなところです。ガンツさんは治療は必要ないですか」
「ダイチ、今はそんなことはどうでもいい。リューマ、儂は治療はいらん。それよりもさっき言っていたのは本当か?」
ガンツさんが置いていた大槌を再び持ち上げる。
「え?」
「あいつのレベルだ」
「……はい」
「それはマズいね。とても私達だけでどうにかできるような相手じゃないよ。村人の避難はどうなってるかわかるかい。リューマくん」
ダイチさんが軽く天を仰いでため息を漏らす。
「はい、リミにお願いして南門や東門から逃げるように伝えて貰っています。ダイチさん達があいつを西門に足止めしてくれていたおかげで避難は順調だと思います。ただ……」
「わかっておる。村から逃げたところであいつをなんとかせねば、追いかけられたら逃げきれぬ。戦えるのが儂らしかおらん以上は儂らでなんとかするしかあるまい。そのレベルではガードンでもきつかろう。儂も行く、お前は気力が回復したら来い。無理なら避難した村人たちの護衛に回れ」
ガンツさんは結局一度も僕の顔をまともに見ることなくフレイムキマイラとの戦いに戻って行った。ダイチさんに残した言葉は今までの戦いと相手のレベルを聞いたことで心が折れかけているダイチさんを気遣ってのことだろう。
多分今までは父さんがいないことで、逆になんとか村人のために踏ん張れたんだ。でも父さんが戻って来て、ちょっと安心してしまったところに魔物のレベルという実力差を突き付けられて保身の気持ちが出てしまったのかもしれない。でも、あんな奴を相手に傷だらけになりながら今まで頑張ってくれたダイチさんを責めることなんてできない。
「ダイチさん。村人の避難誘導に向かったリミが心配です。逃げ遅れた人がいないか確認しながらリミを助けに行ってあげてくれませんか。お願いします!リミは僕の大事な幼馴染なんです」
ダイチさんは僕のお願いに一瞬、驚愕の表情を浮かべすぐに眉を寄せた。僕のお願いの本当の意味に気付いてしまったのだろう。
「……リューマくん。君は怖くないのかい?」
「……怖いですよ。でもダイチさんだって今まで戦ってたじゃないですか。そんなにたくさんの傷を負ってまで……どの傷も一歩間違えば死んでた傷ですよ」
おそらく、ダイチさんは状況の悪さから半ば開き直って戦っていた為に恐怖に竦むことなく戦えて、結果として紙一重で致命傷を受けなかった。でも今の精神状態で戦闘に復帰するのは正直危ない、ガンツさんの見立ては正しい。
「行ってください。逃げた人達にだって護衛が必要です。もし、僕達がここで負けてしまったらその時こそもう一度その大剣を振るって皆を守ってください」
「……わかった」
ダイチさんは目を閉じると大きく息を漏らす。
「ここを離れる以上、必ず村の皆を守るよ」
「はい、お願いします」
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