リューマ → 14歳
「おめでとうリューマ」
食卓に並ぶいつもより豪勢な料理の向こうで相変わらず綺麗な母さんが微笑む。
「ありがとう、母さん」
「とうとう、リューも成人だな。すぐに冒険者になりにいくのか」
40歳に近くなってきても未だに逞しい体躯を維持している父さんが真面目な顔で聞いてくる。ずっとなりたかった冒険者。その為の条件だった成人になる14歳。それが達成された以上は本当ならすぐにでも旅立ちたいところだけど……
「本当はすぐにでもって言いたいけど、リミが成人するまで待つつもり。一緒に行くって約束だからね。だからあと半年くらいかな」
「そうね、ミランやデクスもその方が安心するでしょうし、そうしてあげてくれる?リミちゃんも今日までずっと頑張って来たから冒険者としてやっていける力は十分あると思うけど、やっぱり女の子の1人旅は危険だから……」
おそらく、母さんはその言葉の後ろには『特に亜人の女の子の場合は……』と付け加えたかったのだろう。ポルック村では人種の差別は全くないけど、未だに他の所では亜人蔑視の風潮が根強く残っている所もあるみたいで、亜人の人達は油断すると攫われてひどい目にあわされたり、奴隷として売られたりしてしまうこともあるみたいだ。
ミランおばさんやデクスおじさんもリミの頑張りを見て冒険者になること自体は正式に認めることになっていたけど、それでも1人で旅に出すことには難色をしめしていた。それを解消するためにリミから私が成人するまで旅立つのを待って欲しい。と頼まれ、僕はそれを了承して一緒に旅立つ約束をしたんだ。
まあ、モフとタツマと3人で旅立つのも有りだけど、やっぱりちゃんとした話が出来る相手がいた方が僕も嬉しいし、知らないところでリミが危ない目にあうのも嫌だから半年くらいは待ってもいい。
「そうか!じゃあ、あと半年は総仕上げでみっちりしごいてやるからな!そうと決まれば食べよう」
「うん、せっかくの母さんの料理が冷めちゃうしね。いただきま~す!」
「ふふふ……そんなに慌てなくてもお料理は逃げないわよ」
タツマと出会ってから約4年。僕は今日、とうとう14歳の誕生日を迎え成人した。この4年間、タツマのアドバイスの下、こっそりと森に行って魔物を倒してレベルを上げ、有益なスキルがあれば交換するという日々を繰り返してきた。
その結果、今の僕のステータスは
名前: リューマ
状態: 健常
LV: 15
称号: レッツわらしべ
(熟練度が同じスキルのトレード率が100%。以降レベル差が1広がるごとに成功率2分の1)
年齢: 14歳
種族: 人族
技能: 剣術2 槍術2 棒術3 格闘2 統率2 威圧2 風術1 水術1 行動(水中1 樹上2 隠密3) 視界(明暗2 俯瞰2 遠見2《4倍》) 耐性(毒2 麻痺2 風2 水2) 木工2 料理2 手当1 解体3 調教3 掃除2 採取1 裁縫1 再生2
特殊技能: 鑑定 中2の知識
固有技能: 技能交換
才覚: 早熟 目利き
スキルの数は大分増えたけど、狩人の森にいる魔物だとどれだけ倒してもレベル的にはこの位で頭打ちだったし、魔物が持っていた所持スキルも交換して有益そうなものはそう多い訳じゃなかった。
この【技能交換】は残念なことに、同じスキルを複数取得できない。だから【剣術1】と【剣術2】を取得することは出来なくて、後からトレードしようとしたスキルは必ず失敗する。【剣術】同士のトレードは出来るんだけどね。
タツマが可能性として指摘していた『同じスキルをたくさん集めれば熟練度が統合されてガン上げ出来るんじゃね?』という説は残念ながら速攻で否定されてしまった。
だから高レベルのスキルが少ないのが難点と言えば難点。
でも種類でいえば、ガルホークという鳥型の魔物が住み着いている場所を見つけたおかげで【風術1】【俯瞰視2】【遠見2】というスキルを取れたし、水辺にいたアクアリザードっていうコモドドラゴンみたいな中型の魔物から【水術1】【水中行動1】などを取れたりしてスキルの構成としてはいろんな状況に対しての適応力が増したと思う。
もう少し強い魔物が生息しているところにも行ってみたかったけど、距離的に日帰りが難しかったので仕方がない。
魔境産のはぐれとかはたまに村の近くまでくるけど、僕の実力じゃとてもじゃないけど敵わない。遠くから【鑑定】すると珍しいスキルや高レベルのスキルをたくさん持ってるからなんとかしたかったんだけど……下手に飛び出したら瞬殺されそうだった。
「リュー、今日は珍しく予定が無いから槍を見てやろう」
翌日、朝の食事が終わって、まったりとしているといつも忙しくて夕方しか稽古をつけてくれる時間が取れない父さんからありがたい申し出があった。
僕の感覚としてスキルの経験は実戦形式の方が上がりやすい気がしている。スキルを取るまでは型の稽古や素振りでもそれなりの効果があるかもしれないけど、レベル2以上は多分戦闘経験的なものが重視されるんじゃないかと考えている。
だから、この前とうとう【槍術】が5に上がった父さんとの模擬戦はレベル2の僕にとっては効率のいい訓練になるはずなんだ。
「いいの!父さん。もう少しで【剣術】と【槍術】が上がりそうな気がしてるから、父さんが見てくれるなら助かるよ」
「おう!任せておけ。だが、普通なら戦闘系スキルがレベル3まで上がるのは冒険者を7、8年やってからだったりすることが多いんだ。だから焦るんじゃないぞ。新米冒険者ならレベル2は期待の新人くらいの扱いになれるレベルだから心配するな」
父さんが機嫌よくがははと笑いながら僕の背中を叩く。最近は僕の身体もがっしりとしてきたから父さんもあまり手加減をしないので結構痛い。
「また川辺に訓練に行くつもりだったし、今すぐやろうよ父さん」
「お?成人してやる気だなリュー。良し、じゃあいっちょ揉んでやろう。先に行って準備運動しておけ」
「分かった!1本取ったらって約束も忘れないでよ父さん」
「分かってる、分かってる。そんなに焦らなくても出発の時には貸してやるって言ってるだろ」
「でも、1日でも早くアイテムバッグ欲しいから本気で一本取りに行くからね」
父さんとの模擬戦をよくするようになってから、もし一本取れたらアイテムバッグを借りるのを前倒してくれるという約束をした。まあ、約束してからもう2年位経つんだけどモチベーションは高い方がいい。それにこの4年で森に隠してある魔晶や素材もそれなりの量になってるから早めに回収もしておきたい。
「まだまだ、息子には負けられんよ」
笑いながら父さんが席を立ったので僕も言われた通り先に行くことにする。
いつものように剣と槍を装備して家を出ようとした時、玄関の扉を誰かが激しく叩いた。




