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秘密 → 特訓

 タツマと出会って、魔物とスキルを交換するべく『狩人の森』へ行くと決めてから数日が経ち、とうとうその日がやってきた。3ローテ後の休養日が今日である。


 今日一日自由に動けるように家の手伝いなんかは少しずつ前倒しで終わらせてある。後は怪しまれないように抜け出すだけだ。朝の訓練が終わり、朝食を食べ終えて父さんが家を出てからが勝負である。


「母さん。僕、今日は1日北の川沿いで訓練するつもりだからよろしくね」


「あら、頑張るわね。お昼は?」


「うん、最近リミがどんどん上達してきてちょっと焦ってるんだよね。まだ負けたくないからさ。そんなことリミに知られると恥ずかしいからリミにも内緒にしておいてね。お昼は干し肉だけちょっと貰って行くね。夕方には帰るから」


「はいはい、気を付けてね。分かってると思うけど北に行くなら鐘の音だけは絶対に聞き逃さないようにね!……それにしても『母さん』……か。いつの間にか男らしくなっていくのね」


「分かってる!じゃあ行ってきます」


 北門の鐘の音は、魔境から魔物が現れた時の合図だ。聞こえたらすぐに村へと逃げ込まなくては行けない。最後の方は良く聞こえなかったが、鐘に関しては大事なことなので大きな声で返事をしておく。


 母さんが居た台所を出ると僕は、玄関近くに準備してあった剣を腰に差し、槍を背負って、小さなずだ袋を肩にかけて家を飛び出す。家を空ける理由として自主練というのはかなりベタだが、これからも度々抜け出すつもりがある以上、理由はベタな方が何度も使える。


「モフ、タツマも行くよ」


 玄関を出たところで待機をしていたモフとその上のスライムに声を掛けるとそのまま北門に向かって村を出る。きちんと詰所には夕方くらいまで戻らないかもと言っておく。じゃないと行方不明扱いになって大騒ぎになってしまう。


 森に行くにしても、大騒ぎにならないようになるべく早めに戻ってきた方がいい。こんな時、父さんの【気配探知】があると魔物を探す時間が少なくなっていいんだけどね。


 でも、僕には【隠密】があるから魔物さえ見つけてしまえば奇襲はしやすいはず。そもそも【隠密】スキルがなければ1人で森に行くと言うタツマの案を了承はしなかったかもしれない。





「……疲れたぁ。大体1時間半くらいかな。ちょっと遠回りになるし今はこのくらいが限界か」


『いや、充分すげぇよ。俺が生きてた世界なら普通に箱根駅伝とかでぶっち出来るレベルだぜ。その歳でたいしたもんだ』


「……あぁ、うん。タツマの世界は平和なんだね。ただ速く走るだけを追求できるなんて」


『そうだな、少なくとも俺の国はとことん平和だったと思うぜ。……でも、不思議なんだが帰りたいとは思わねぇんだよなぁ』


 タツマの口調は嘘を言っているようには思えない。魔物がいなくて、食べる物がたくさんあって、便利な道具で満ち溢れた世界なのにどうしてだろう。


『……なんかなぁ、俺が悪いんだと思うんだけどよ。うっすいんだよ毎日が!寝て、起きて、食べて、学校行って、食って、帰って、食べて、寝る。この世界からすりゃ幸せすぎる1日だってのは分かるんだ……だけどつまんなくてな』


「今はどうなの?」


『ふん!スライムになんかなっちまったけど、毎日が楽しくて仕方がないぜ!』


 ぶるぶると身体を波打たせるタツマは本当に楽しそうだ。結局のところ、どこにいても不満はあるのだろう。それなら、隣を羨むよりも今自分が出来ることを頑張って不満をなくしていくしかないってことなんだな。


「うん、なら今は強くなるために頑張ろう」


『お?そのやる気いいね!早く行こうぜ俺も魔物とか見てみたいしな』


 うん、君自身が魔物なんだけどね。という突っ込みはしないでおこう。


「了解。モフ!魔物の臭いを探せる?」


『きゅん!』


 やみくもに歩き回るよりも、モフの嗅覚や野生の勘に頼ろうと事前にタツマと話して決めていた。ここで『モフ探知』がうまくいくとこれからの計画が大分助かる。


 俺の言葉に耳を硬くして勢いよく鳴いたモフは『任せておいて』と言っているように思える。【調教】が2に上がってなんとなくモフの気持ちが分かるようになってきた気がする。


 タツマを乗せたまま森に入っていくモフを慌てて僕も追いかける。当然【隠密】を使いつつ、重ねて【統率】を使い隠密効果の対象にモフとタツマも指定しておく。弱スライムであるタツマには必要ないかもしれないが、念のためでついでだ。


 モフが進む。臭いを嗅ぐ。またモフが進む。そしてまた嗅ぐ。というのを繰り返しながら30分ほど森の奥に進んだ頃、モフの動きが止まり耳が硬化する。


『見つけたっぽいな。どこにいるか分かるか?』


 タツマの脳内への問いかけに『ちょっと待って』とハンドサインを出し、モフが警戒している方へと進む。もちろん姿勢は低く、木々を盾にしつつである。


 そうして慎重に進むと、ぐちゃっ、ぐちゃ、と気持ち悪い音が聞こえてくる。どうやらお食事中らしい。更に慎重に歩を進めて木の陰から覗き込む。


 いた!茶色い肌の大柄な背中をこちらに向けて地面にある何かを食べている。……よく見ると隙間から緑色の足が見えるので、多分ゴブリンを食べているのかもしれない。とりあえず【隠密】が効いているようで僕たちには全く気が付いていないので【隠密】を切らさないようにしながら【鑑定】してみる。


オーク

状態: 健常  

LV: 9

技能: 威圧1 格闘1


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