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SS ポルック村のお祭り

お蔵回避のSS二本目です。

「りゅーちゃん! 次あれ! あれやってみようよ」


 繋いだ僕の手を引っ張るリミの顔はとても楽しそうだった。それもそうだよね、だって今日は一年に一回しかないポルック村のお祭りなんだから!


 ポルック村では秋の収穫が終わったあとに、お祭りをすることにしている。この日は村の余剰食糧などを惜しげもなく使って美味しい料理を配ったり、ちょっとした遊びなんかの催し物をすることになっているんだよね。


 ポルック村のメインの通りと広場を灯籠や提灯で飾り、大人たちが路上で楽しそうに酒を飲みながら語らい、子供たちが串焼きを頬張りながら遊ぶ。さらに広場では歌のコンテストが開かれ、人族のヒュマスさんの意外にもキレイな歌声が響いていたりする。


「あら、リミちゃん。素敵な服ね、お祭りの雰囲気にとても合っていて可愛い。どうしたの?」

「へへぇ、りゅーちゃんと一緒に作ったんだ!」


 兎人族のラビナさんが僕たちを見つけて酒杯片手に微笑みかけてくると、リミは僕の手を離してくるくると回る。リミがいま着ているのは僕がタツマから得た知識から作成した浴衣もどき。

 余った布を使って僕とリミが【裁縫】スキルを駆使して作った自信作だ。今年で十一歳になるリミは体のめりはりはまだまだだけど、逆に浴衣はその体型がよく似合う。


「う、羨ましいです……ぜひ来年は私にも作ってください」

「うん! いいよ。作り方は覚えたからラビナさんにも作ってあげるね」

「わあ! ありがとうございます! これを着て迫ればあの頑固な鍛冶馬鹿も……」

「え? ラビナさん……そうだったの?」

「へ? い、ぃいいえぇ、な、なにも言ってませんよ。それよりも絶対約束ですからね、リミちゃん」

「任せてください! ふふふ、色っぽくなるように作りますね」


 なにやら女同士で悪い微笑みを浮かべているが、あれは関わってはいけない。見ないふりこそが正解だろう。


『それにしても、タツマの世界にあった祭りの知識をちょっと取り入れただけで雰囲気がかなり変わったよ』

『まあな、俺たちの国は祭りとかイベントが大好きなやつらばっかりだったからなぁ……』

『いつもながら、凄い平和な国だね』

『まあ、とくにおつむが……だけどな』


 モフの上で自嘲気味に体を震わせるタツマ。出会って二年くらいが経つが、タツマの知識は相変わらず凄い。この通りを照らす提灯も、歌の大会も、そこらにある子供向けの出店も全部タツマの知識から得たものをそれとなく僕が大人たちに提案したものだ。


「りゅーちゃん! お待たせ! さっきのやつやりにいこう」

「わかった、わかったから引っ張らないでよリミ!」


 お祭りの雰囲気にあてられているのかリミのテンションはいつになく高い。引っ張って連れていかれたのは『小魚すくい』…………うん、金魚すくいのパクリだね。そして魚好きのリミはぶれない。


 ポルック村バージョンは川で取れた食べられる小魚を木で作ったポイですくうというもの。ポイは柄と皿を別にして、接合部を水にぬれると徐々に溶ける樹液で固めてあるので、いかに濡らさず、時間をかけずにすくうかがポイントなんだ……けど。


「にゃ! にゃ! にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃぁ!」


 うわぁ、小魚さんたちが宙を舞って、吸い込まれるようにリミの椀の中へと入っていくぅ。凄いなぁ……って!


「ちょ、ちょっとリミ! ひとりでどんだけ取ってるの! 駄目だったら、ちゃんとひとり三匹までって書いてあるでしょ! イノヤさんの目が点になってるから!」

「にゃにゃにゃにゃにゃあ!」

「リミィィィィィィ!」


 その後、リミをなんとか正気に戻すまでに、小魚さんたちがほとんど取りつくされていた。いや、勿論三匹以外は返したよ? リミはふくれっ面だったけど、そうじゃないと来年から間違いなく出禁になるからね。


「今年のお祭りは楽しいね、りゅーちゃん」


 歌のコンテストが佳境の広場を眺めながら、片手で僕の手を握り、もう片方の手にはすくった小魚さんを入れた木箱に紐を通したものをぶらさげたリミが微笑む。


「そうだね、来年は小魚すくいと輪投げ以外にも射的っていうのも提案してみようかな?」

「にゃ? お魚関係ある?」

「ははは、お魚は関係ないかなぁ。でも景品に入れてもらえばなんとかなるかもだけど……提案してみる?」

「うん! お願いね、りゅーちゃん。約束」

「はいはい。わかりました、お姫様。じゃあ、約束」


 楽しそうな笑い声と笑顔に溢れるポルック村をながめながら、僕たちは繋いだ手を崩して人差し指を絡めて三回振る。僕たちだけの、約束のおまじない。



 翌年、弓矢形式の射的が採用されたが景品の魚に目がくらんだリミが、【弓術】スキルを使って暴走したのは、あまりにもお約束だった。

                      


新作始めました。

オンラインゲームの経験もない作者が無謀にもVRMMOものに挑戦です^^;

いろいろご都合主義だと思いますが温かい目で見守って下さいませ。

現在第6話まで公開中です。

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