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SS 新天地への旅立ち

書籍化の話が進行していたときに準備していたSSですが、このままだと陽の目を見ないかも知れないので投下します^^;

「ガードン! そっちへいったわ!」


 槍で牽制していたマリシャがシャドウエイプという黒い猿の魔物をこっちに追い込んでくる。


「任せとけ!」


 俺は両手で握った大剣を追い立てられた魔物の頭上へ振り下ろして、一撃で息の根を止める。魔物の死体はすぐにダンジョンに吸収され、魔晶だけを残して消える。俺が魔晶を拾っていると後ろから青いローブを着て杖を持ったラナスティが走ってくる。


「ちょっとマリシャ! あんたはうちの回復要員でもあるのよ、無駄に前へ出過ぎないで!」


 笑いながら槍を担いで戻ってきたマリシャにラナスティはお怒りのようだが、マリシャが大人しくずっと後方にいたことなんて一度もないのだから、そろそろラナスティも諦めればいいと思うのだが。


「いやよ、できるのにやらないのはただの怠惰だわ、って何回言わせるの、ラナ」

「がははは!」

「ゴートうるさい! そもそもあんたがもっとタンクとしてしっかり働けば、わざわざマリシャが前衛に上がる必要もないのよ!」

「おう、すまんすまん」


 重鎧と大盾を持った大男のゴートが快活な笑い声をあげる。そもそもゴートが後ろで魔物たちを相手していなければラナスティは魔法を使うこともできずに死んでいるということに気が付いているのだろうか?


「ラナスティ、今日はここで切りあげる。小言はダンジョンを出てからにしてくれ」


 辺境都市フロンティスで冒険者になって、いつの間にかこの四人でパーティを組むことになってもうすぐ三年か。こんな感じでわいわいやりながらも、俺たちは息が合い冒険者としてのランクも上がってきて、フロンティスでも有数の冒険者になってきた。


 今日の稼ぎも一般的な冒険者の数倍だ。その金でいつものように行きつけの店で美味い料理と酒で打ち上げをする。まさに順風満帆な人生といえる。だが……


「ガードン? どうしたの? みんな行っちゃったわよ……また気にしているのね。あなたのせいではないのよ」


 思わず立ち止まっていた俺にマリシャがそっと寄り添ってくる。


「だが……獣人や亜人たちだって人間だ。なぜここまで差別されなくてはならない」


 俺が見ていたのは路地裏で生気のない目をしたままうずくまっている鹿人族の子供だった。この街では人族以外の人種は蔑まされている。人よりも強靭な肉体を持ち、心根も優しい獣人たちがなぜ、こんなにも忌み嫌われなければならないのか……。


「ガードン……でも私たちでは彼らを救うことはできないわ。ひとりふたりはなんとかできても全員を救えるだけの財はないし、面倒を見続けられるほどの責任も持てない……彼らを救うにはこの街の領主を変えるか、この街を出るしかないわ」

「街を変える? 街を……出る? …………そうか、そうだ! そうすればよかったんだ! ありがとうマリシャ! いま俺がやれること、やらなきゃならないことがわかった気がするよ」

 

 それから俺は精力的に動いた。この国、とりわけこの辺境伯の領地が厳密にはどこまでなのかを調べ、どこならだれにも干渉されないかを調査する。

 スラムに何度も足を運び、そこにいる獣人たちに声を掛け続け、知り合いの亜人にも協力を呼びかけ、ダンジョンに入って金を稼ぐ。その金で必要だと思えるものをどんどん買い揃えた。そんな日々を半年余りも続けた。


「本当に行くの? ガードン。こんなことしてもあなたにはなんの得もないじゃない」

「そうだな、でもラナスティ。俺は見て見ぬふりはできない、したくないんだ。偽善でも独善でもお節介でも自己満足でもなんでもいい。俺がそうしたいと思ったんだ。だからいくよ」

「……あなたは馬鹿ね。でもそんなあなただから…………とっても楽しかったわ」


 ラナスティが微笑みを浮かべて差し出した手をしっかりと握り返す。白く細い手だが、この手が導く魔法に何度も助けられてきた。


「これも、持っていけ」


 同じように見送りにきていたゴートが、一見するとおもちゃのようにも見えるポーチを差し出している。


「これは……アイテムバッグじゃないか! 駄目だ、これはパーティの共有財産だ! 勝手に抜ける俺が持っていくわけにはいかない」

「いいのよ、私たちはまたダンジョンで探せばいいし、力だけは有り余っているゴートがいるから荷物なんていくらでも持ってもらえるわ。でもあなたはそうはいかないでしょ」

「……すまん、いや! ありがとう」


 受け取ったマジックバックを腰に装着すると俺はふたりに頭を下げる。


「マリシャはどうしたの?」

「いや、ここ数日会っていない。未開の地へと勝手に旅立つんだ愛想をつかされても仕方ないさ」


《ゴン!》


 痛い、だが懐かしい痛みだ。出会った頃はしょっちゅうこうして槍で小突かれていたものだ。


「私があなたを見捨てるわけないでしょ。女にはいろいろ準備が必要なのよ」

「マリシャ! 一緒にきてくれるのか?」


 振り返った先には大きな荷物を背負ったマリシャが槍を持って仁王立ちしている。どうみても長旅に出る格好で、俺の言葉に笑顔で頷いてくれた。よかった、これでもう心残りはない。俺は周囲に集まっている人たちに向かって剣を突きあげ宣言する。


『いこう! どうせ野垂れ死ぬならこんな掃き溜めではなく、わずかでも希望がある場所で死のう!』


 感極まってあげた俺の宣言に応えてくれた獣人たちの希望に満ちた歓声を、俺は一生忘れることはないだろう。   




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