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エンペラー → チート

 ちょ、ちょっと待ってよ。こ、これがエンペラー?


 見た目こそ幼児と変わらないくらいに小さいし、レベルも一だけど……これは、紛れもない化け物だ。

【神速】は【敏捷】の上位スキル、そして【怪力】は【豪腕】の、【威光】は【威圧】の上位進化スキル。それだけでもやばいのにスキルレベルも高い。さらに問題なのがエクストラスキルと才覚……


 この場にはまだ三桁を越えるゴブリンたちがいる。もしゴブリンエンペラーが【眷属支配】でゴブリンたちを操って、共食いのように殺していけば……そのゴブリンたちの力をゴブリンエンペラーは【眷属吸収】で得る。しかも【皇帝の器】という成長率を増幅する才覚を受けて恐るべき速度で強くなっていく。


 仮にこの場を逃げることができても、どんどん強くなっていくあいつを野放しにし続ければいずれ誰も勝てなくなる。そうなれば……こいつ一体に僕たち人間は滅ぼされてしまうかも知れない。


 あ……それこそ、人魔族が望むことじゃないか。そう考えればゴブリンキングとゴブリンクイーンが揃ってここにいたというレアな状況はやっぱり偶発的なものじゃないってことになる。


 でも、なんで……なんでそこまで皆を恨まなくちゃいけないんだろう。確かに昔の人たちに迫害されて、過酷な地に隔離され続けたんなら恨みを抱くのはわかる。でもきっと、ポルック村なら人魔族の人たちだって受けれ入れてうまくやっていけたはず。そういう人たちだってたくさんいるのに!

 死んでしまったらもう二度と取り返しはつかないのに……。それに、今度は人魔族の人たちに殺された人たちの知り合いが、人魔族を恨むようになる。そんなことを続けていたら本当にどちらかが絶滅するまで争うことになっちゃうんだ。

 

 だから……そんなことにならないためにも、こいつが強くなる前に倒すしかない。こいつはいま絶対に倒さないと、とんでもないことになる! 少しでも早く速やかに、あいつが他のゴブリンたちを殺せば強くなれると理解する前に! 


 しかし、心はそう叫んでいるのに、エンペラーの【威光】に完全に気圧されて槍を握る僕の手は小刻みに震え続けている。

 く……敵の【威圧】に耐える訓練はしていたのに、それでもこんなに影響を受けるのか。


 くそ! 震えるな僕の手! あいつを倒すんだ!

 

 エンペラーはまだ生まれたばかりだからなのか、空腹を癒すためと、好奇心を満たすことに夢中で肉山の死肉を貪ったり、意味もなく放り投げたりして遊んでいるだけで僕たちにさほど興味を示していない。おかげで僕には自分のメンタルを立て直す時間があった。その時間を使って、必死に自分自身を鼓舞したことでなんとか手の震えは止まった。足も動く。


 緊張で荒くなった息を整えつつ槍を構えながら、手の汗を順番にズボンで拭う。その際にちらりと後ろを確認すると、鹿のような大きな獣の死体をぶつけられたらしいゴートさんがその死体の下敷きになっている。獣の下から脚甲を装着した足が二本見えているが、逆に下敷きになっているせいで他のゴブリンたちの注意をひかず、放置されているらしい。


 動きがないのが気にかかるけど、気絶しているだけならあのままにしておいたほうが安全そうだ。むしろ問題は……僕にあいつの動きが捉えらえるかどうか。


 少なくともさっきゴートさんが吹っ飛ばされた死肉の投擲は、かろうじて何かが飛んできたことがわかる程度だった。あの【怪力】に加えて【神速】の速さもある。はっきりいって僕のスキルの数なんて問題じゃない。エンペラーはたった三つのスキルだけで、レベル一にして僕を圧倒できる。


 タツマはよく僕のことをチートだって言うけど……本当のチートっていうのはああいう奴のことだと思う。


『びびってんじゃねぇぞ、リューマ! お前のほうがチートだ! そんだけすげぇスキルだっていうことは、交換が成功さえすれば一気にひっくり返るってことなんだからな!』

『……あ、そうか! そういうことになるんだ……』

『だからお前は奴に触れることだけを考えればいい……そうだなまずは【神速】を狙え。上位進化のスキルだとしてもレベルはたったの2(・・・・・)だからな』

『え? …………あ! まさか、そういうこと?』

『可能性は高い。っていうかまず間違いないと思うぜ』


 タツマがここまで言い切るなら信用できる。あいつを倒すんじゃんくて、あいつに触る。これだけハードルがさがればなんかできそうな気になってくるから不思議だ。危機的状況はなにも変わってないんだけどね。


「それならまずは……」


 僕はまず【隠密4】を全開で発動すると、龍貫の槍をそっとアイテムバッグにしまう。武器が無いのは怖いけど僕には魔盾の籠手もあるし、最悪無手でも【格闘】できる。目的が触るだけなら、武器なんか持っていないほうがいい。武器を持つと、どうしても気が昂って【隠密】の効果が薄れる。


 足音は勿論、心までも静かに……ゆっくりとエンペラーへと近づく。隠れるものはない、エンペラーがこちらを向けば僕は確実に視界に入る。いくら気配が薄くなっていても視界に入っていれば、ちょっと意識されるだけで見つかる。だからこの【隠密】はあいつにこっちを振り向かせないためのもの。その他のゴブリンで僕に近づこうとする奴は、きっとシルフィとリミがなんとかしてくれる。


 きっとふたりはエンペラーのことなんてわからないだろうけど、あいつがやばいのはゴートさんが吹っ飛ばされたことでふたりも察しているはずだ。そのうえで僕が気配を消して忍び足をしていれば、状況の詳細はわかっていなくてもしっかりと援護はしてくれるだろうと僕は信じている。だから僕は安心して気配を消して近づくことだけに集中する。


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