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ゴブリンキング → 陽動

 ゴートさんが戦槌を握る手に力を込める。最初の予定では僕は見ているだけのはずだったけど、その一撃で確実にキングを倒せるようにするため、ゴートさんの一撃の直前に僕がひと働きすることになっている。


 僕は目線だけでゴートさんに合図を送ると、極度の緊張で音が鳴りそうな呼吸を止めるとゆっくりとキングに近づいてその背中にそっと手を添え、スキル発動。

 同時にゴートさんの戦槌が唸りをあげてキングの頭部を真上から叩き潰そうと振り下ろされる。


技能交換(スキルトレード)

 対象指定 「剛体2」 

 交換指定 「樹上行動2」

【成功】


 今回は絶対に失敗できないので、行動系のスキルは勿体なかったけど【樹上行動】のスキルを使った。同レベルなら成功率は百パーセントだ。

 だから僕は、トレードの成否も確認しない。逃げやすいように半身の状態でスキルを使ったから振り向く必要すらない。即座に距離を取るべく地面を蹴る。その瞬間、僕の背後で巨大なかぼちゃをハンマーで叩き潰したかのような音が聞こえた。同時に水風船を割ったときのような水音……振り返るのはちょっと躊躇う音だけど、三歩走って、ゴートさんの背後にたどり着いて振り向く。


(うわ……)


 振り返った先では、完全に頭部を破砕されたゴブリンキングがゆっくりとこちらに倒れてくるところだった。


(って、やば!)


 このままだとゴブリンキングの背中に押し倒されると判断した僕とゴートさんはさらに数歩後ずさる。そのころには周囲のゴブリンたちがキングの頭がないことに気が付きだしている。中でも反応が早いのが、キングの両脇に控えていたジェネラル二体だ。


 キングを殺したのがゴートさんだと本能的に察したのか、怒りに満ちた目を向け、雄たけびを上げながら各々の武器を構えようとしている。武器は僕から見て右側が剣と盾、左側は杖の先から剣が出たような特殊な武器を持っている。


『ゴブリンライトジェネラル

 状態:憤怒  

 LV:32

 技能:剣術2/盾術2/威圧2/豪腕3』


『ゴブリンレフトジェネラル

 状態:憤怒

 LV:33

 技能:剣術1/火術2/威圧1/豪腕2/付与魔法1』


 う、やっぱり強い。【鑑定】をかけてみたけど、やっぱりジェネラルは強い。でも、さっきのキングはスキルレベルも高かったけど、こいつらはスキルレベルが低めなのがせめてもの救いか。

 スキル構成を見る限り、右将軍がごりごりの武闘派で、左将軍は……魔法を使う? ゴブリンが? しかも【付与魔法】とかものすごいレアな魔法なのに。


「リューマ!」

「あ、はい!」


 ゴブリンキングが倒れた音と、ゴートさんの声で我に帰るとすぐにタツマに合図を送る。


『タツマ! キングは倒した。攪乱作戦開始をリミたちに伝えて!』

『任せておけ! 巨乳ハイエロフがずいぶんと頑張ったみたいだから、ちょっと面白いことになるぜ。そのかわりお前たちはしっかりと逃げろよ』


 タツマの意味深な言葉にどういうことかを問い返そうとしたけど、こっちはこっちでそれどころじゃなかった。ジェネラル二体が僕たちに向かって襲いかかってきている。


「リューマ! 作戦通りお前は逃げろ! 【お前たちの相手は俺だ! かかってこい!】」


 ゴートさんが【挑発】のスキルを使ったらしく、僕へ向かってきていた左将軍もゴートさんへと攻撃対象を変えた。周りの雑魚ゴブリンたちも、すでに僕たちのことは認識しているので、現状を把握すれば襲いかかってくる可能性があったが、そいつらの注意もいったんゴートさんに集まっている。


 確かに逃げるならいまだよね……でも、さすがのゴートさんでもジェネラル二体とゴブリンの群れに襲われたら無事ではいられない気がする。


「ぬぅ! ゴブリンが魔法を使うか」


 右将軍の攻撃を大楯で受け止めていたゴートさんに、左将軍が【火術】で火球を放った。ゴートさんは【全耐性】持ちだからか、火球を避けずに戦槌で撃ち落としたけど耐性のレベルが二くらいじゃ無傷というわけにはいかない。でも僕なら……


 あ、左将軍が魔法の効果が薄いと気が付いたのか剣杖でゴートさんに斬りかかり始めた。しかもあれって……


「剣が燃えてる」


 あれが【付与魔法】の効果? たぶん剣に火の属性を付与したんだ。ジェネラル二体から同時に攻撃されるようになったゴートさんは高いスキルと防御に特化したスキル構成でなんとか対応しているけど、さすがに厳しそうだ。


「くっ!」

「あ!」


 ゴートさんの大楯を突破できないことにイラついたのか右将軍が大楯に体当たりをした! 予想外の衝撃にゴートさんの体勢が崩れ、左将軍の炎の剣が……


「やっぱり僕だけが逃げるなんてできない! ゴートさんこっちは僕が引き受けます!」


 左将軍の炎の剣を龍貫の槍で受け止めて、顔に【水術】で作った水の礫を高速で放つ。運がよければ目を潰してくれるだろうが、最悪でもゴートさんから離れてくれればいい。


「グゴギャアァ!」


 剣杖を止められ、顔に攻撃を受けた左将軍が目をこすりながら後退していく。よし! 目は潰せなかったけど左将軍をゴートさんから引き離すことには成功した。


「リューマ!」

「大丈夫です! 僕には火は効きませんから!」


 【火無効】のレベル5がある僕は、左将軍の【火術】をほぼ無効化できる。レベルも僕のほうが高いし、スキル数にいたっては比べるまでもない。僕だってゴブリンジェネラルの一体くらいは倒せるはずだ。


「……わかった。こっちを片付けたらすぐにいくから、それまで頼む」

「はい!」


 でも、その言葉通りにのんびり戦っていられる状況じゃない。そろそろ周囲のゴブリンたちが襲いかかる気配を見せ始めている。できれば本格的に襲ってくる前にジェネラル二体を倒して、ゴートさんと後退したい。それに、もう十五秒は経った!


『いっくぜぇ! リューマ!』


 きた! 左将軍に追撃をかけながら脳裏に響くタツマの思念。同時に地面が小刻みな振動を始めた。靴を履いて立っているのに感じるほどの揺れだからそれなりに大きい振動。どうやらシルフィが頑張っているというのは本当らしく、この周辺の土の精霊たちが根こそぎシルフィのもとに駆け付けているのがわかる。


 視界の回復した左将軍がまたしても火球を放ってくるが、僕は槍の石突で軽く迎撃。至近で炎が爆散しても火によるダメージは皆無だ。

 でも、その爆炎で一瞬視界が悪くなった隙にゴブリンソルジャーが僕の横から斬りかかってきていた。


(まずい、対応が遅れた! 間に合うか)


 慌てて龍貫の槍を操るが、間に合いそうもない。とりあえずさっき交換した【剛体2】でなんとか初撃だけ耐えれば、すぐに立て直せる。


「ぐぎゃ!?」


 しかし覚悟を決めて、【剛体】の効果で体を固くした僕の目の前で、ゴブリンソルジャーは頭部をなにかに貫かれて倒れた。その光景は僕には見慣れた光景。シルフィが万矢の弓で放った見えない魔力の矢だ。


 どうやら陽動の準備が整ったらしい。ちらりと一瞬だけ視線を巡らせると、シルフィたちがいつの間にか巣の南側にできていた、十メルテくらいはありそうな土の柱の上から巣を見下ろしていた。


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