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人魔族 → 計画

 悔しいけどポルック村で人魔族のアドニスと相対したときは、まるっきり勝てる気がしなかった。モフの不意打ちがたまたまうまくいったからなんとかなったけど、たぶん普通に戦っていたらフレイムキマイラ以上にやっかいな相手だった。


 そんな人魔族がアドニス以外にもいる。正直、シルフィの勘違いであってほしかった。でも、シルフィの動揺ぶりを見れば疑いようはない。あの、自分たち以外のすべての種族を憎悪していた人魔族なら、こんな非道なことも確かにやるだろう。そして、アドニスが【闇術】のスキルレベルが高かったことから推測して、人魔族が【闇術】に秀でている可能性は否定できない。


「大丈夫か? なにか事情があるらしいのはわかるし、その話はあとでじっくりと聞かせてほしいんだが、いまは目の前のことについて話したい。いいか?」

「あ、はい。僕は大丈夫ですが……」

「は、はい。私も大丈夫です……すみません。取り乱してしまって……」


 ゴートさんの声には僅かに焦りが感じられる。タツマが感じているように、ゴートさんもあのゴブリンたちに時間を与えてはならないという危機感を持っているらしい。


「無理を言ってすまないな。現在の状況はさっき言った通りだ。そして、この状況は長くは続かない」

「……はい」

「すでに奴らの数は飽和し始めているし、与えられていた魔物の死骸も間もなく尽きる。そして昨日の段階で斥候部隊を……おそらく全方位に向けて放っている」


 そうか、昨日のアサシンゴブリンたちは次に群れが向かうべき方向を決めるための偵察部隊だったんだ。


「フロンティス方面の斥候はお前たちが倒してくれた。こっち方面からの報告がなければ、群れが危険があると判断してくれる可能性はある。だが、この森の周囲にはいくつかの集落が点在している。他の方向へ偵察に行った部隊がそれを報告すれば、そこへ向かって群れごと移動を始めてもおかしくない、大暴走(スタンピード)だ」

「群れの奥にはゴブリンキングらしき個体もいました……」

「それは……さらに状況は悪いな。最上位種に率いられた大暴走は群れが散ることなく、目標とされた村や町を襲い、破壊しつくして次へと向かう。その最中にも奴らは同種、異種の交配を続け個体数を増やしていくだろう。そうなっては、奴らを殲滅するためには各地の領主軍とギルドの冒険者で協力しなくてはならない。だが、魔物たちは動員に時間や金がかかる我々とは違う。我々の準備が終わるまでにいくつの街や村が犠牲になるか……」


 あ……なんかわかった。ゴートさんが推測した状況こそが、まさに人魔族が望む形だということに。


「ど……」


 どうするつもりなんですか、そう問い返そうとしたのに、僕の言葉は喉が張り付いてしまったかのように口からこぼれることはなかった。


「案は三つだ。ひとつ、全員で街へと戻り、急いで必要な人数を集め、準備をして殲滅戦を行う。だが、これはおそらく間に合わない。部隊がここに戻ってくるときにはあそこはもぬけのからだろう。痕跡を辿って追いかけることはできるだろうが、森を抜けられてしまえば街の戦力では数に対抗できない」

「……」


 これが、一番無難で確実な案だと思う。確かに、時間的には厳しいかも知れないけど……。


「ふたつめはひとりを街に伝令に走らせ、救援を求める。その間、残った者で奴らを見張り、救援が来てから戦う。ただし、救援が来る前に動き出しそうなときは残った者だけで戦う。もしくは、いまここにいる全員で戦う……だな」


 むちゃくちゃだ! 最初に思ったのはそれだ。あの数に僕たちだけで戦いを挑むなんて無謀にもほどがある。いくらゴートさんが強いからといってもあの数を相手に戦うなんて。

 僕たちがいくら修行してきたからといっても、とても承諾できる話じゃない。メイなんて、アサシンゴブリンを倒してレベルが上がったとはいってもまだレベル三なのに。 


「……無茶を言っているのはわかっている。無理だと思うのなら断ってくれていい。だが、最悪でもゴブリンキングだけは倒しておかなくてはならない」

「そん……な。どうやって」

「スキルを使って雑魚の気を逸らし、ゴブリンキングを倒す」


 確かにあの【誘導】のスキルを使えば、ゴブリンキングのところまで辿り着けるかも知れない。それに、うまく森を抜けて後ろに回り込めれば確率はさらに上がるだろう。だが【誘導】の効果は長く続かない、うまくいってゴブリンキングを倒せてもそのあとは?


「お前たちの協力を得られるなら、うまくやれるような気もするんだがな。ガードンとマリシャの息子を巻き込むのは心苦しい、そこで三つめの案だ。お前たちはいますぐ街へ戻ってギルドに報告してくれ。その後の対応はギルドに丸投げでいい」

「あの……ゴートさんはどうするんですか?」

「ま、なんとかなるさ。固さだけには自信があるしな」

「「そんなの駄目です!」」

 

 そう叫んだのは僕と……シルフィだった。


「リューマ様、私たちも協力したらなんとかゴブリンたちを倒せないでしょうか? 私は……私の、私のせいでまた、たくさんの人が亡くなるのを見たくないんです! もし、どうしても駄目だと言うなら奴隷の契約を解除してください。私はゴートさんと一緒に戦います! 人魔族の企みを阻止して人を助けることこそが私の贖罪になると思うんです!」

「シルフィ……」


 シルフィの目にはさっきまでの怯えはない。死すら覚悟した決意の目だった。


「りゅーちゃん……リミも、またあんなふうに人が死んじゃうのは嫌だよ」

「リミまで……でも、メイはどうするの? まだレベル三なんだよ。いくら装備で底上げしたってとてもじゃないけど」

「メイなら大丈夫だよ、リュー。だって、メイは……ね!」

「……メイ」


 確かにメイは、ダンジョンが作り出した人形のようなものだ。だけど、メイの体を作り出すのにその力のほとんどを費やしてしまったダンジョンが、もう一度体を作り出せるのだろうか。いつか力が溜まればできるのだろうが、それは一年後? 五年後? もしかしたら百年後かも知れない。そうしたら、僕たちはもう二度とメイと会えなくなるかも知れない。とてもその言葉を鵜呑みになんかできない。


『……諦めろよリューマ、三対一だ』

『でも!』

『本当なら俺は、あのおっさんが情と理に訴えて無理やりお前たちを戦わせるんじゃないかと思っていたんだ』

 

 タツマがゴートさんが出すだろう指示に危機感を持っていたのはそういう理由だったのか。


『だが、皆がやる気だっていうなら話は別だ。お前たちが全員揃っていれば、やりようはいくらでもある』


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