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調査 → 発見

別作品の書籍化作業が一段落したので更新再開です。

「おし! 話はここまでだ。こっからは真面目にやるぞ」

「えぇ! もっと師匠たちの話が聞きた~い」


 東の森に到着した途端に、いたずら小僧のようだったゴートさんの雰囲気が副ギルドマスターのものに変わる。


「リミナルゼ、調査が終わったらな」

「あ、そっか。調査に来てたんだった。おじさんの話が面白かったから忘れてた」


 てへ、と舌を出すリミは本当に忘れていたらしい。でも、正直言えば僕もゴートさんの話はとても面白かった。奥手で真面目な父さんが、なかなか母さんに話しかけられずにいろいろ失敗する話。男勝りな母さんに、父さんがいつも振り回されていた話。ゴートさんと父さんの出会い、母さんともうひとりの魔法使いとの出会い、トップパーティに入るまでの冒険話……どれもまださわりだけで、もっと詳しく知りたいと思わせるものだった。


「さて、リューマ。この調査依頼、ここからどうする?」

「そうですね……少なくとも昨日、僕たちが作った地図の範囲では異常を示す痕跡はありませんでした。だからそこまでは調査対象から外してもいいと思います」


 森の中を奥へと歩きながら、ゴートさんの問いかけに答える。


「まあ、そうだな。森の中での痕跡の探し方は習っているか?」

「はい、野生の動物の糞や足跡の見分け方、森に棲む魔物が残す痕跡の見つけ方や、種類ごとに好む環境とかを教えてもらいました」


 父さんと狩りをしながら、教えてもらったことの数々を思い出す。父さんには本当にいろいろ教えてもらった。その知識があったから、タツマとの秘密の狩りも効率よくできたのは間違いない。


「ふ、さすがはガードンだ。ならば、あまり教えることはなさそうだな」


 ゴートさんは嬉しそうに、それでいてどこか残念そうに笑っている。僕と冒険がしたかったというのは本当に本心だったらしい。


「この東の森は広さだけはなかなかのものだが、森の周囲はすべて平地で、しかも水場が少ない。そのせいか植物の生長もあまりよくない。必然的に木の実なども少なくなり、それを食べる小動物も増えない。となれば、小動物を食べる肉食動物も増えない。つまり魔物にとっても旨味が少ない」

「そうなんですね、確かに昨日も動物をあまり見かけませんでした」

「だから、この森には余所での縄張り争いに負けたような、弱い魔物が住み着くことが多い。その代表格がゴブリンなわけだ」

「なるほど……だから初心者向けの森なんですね」


 東の森に対するゴートさんの説明は、順序立ててあってとてもわかりやすい。見た目だけだとあんまり細かいことは気にしないタイプに見えるけど、やっぱり副ギルドマスターになるくらいの人は頭もよくないと駄目なんだろうな。


「問題はなぜ、そんな森にゴブリンの集団と上位種がいたかだが……」

「たまたま……ということはないのでしょうか?」

「シルフィ、だったな。たまたま、というのは案外いい意見だ。世の出来事にはそのたまたまってのが、意外と多いんだ。難しい理屈をつけて理由を考えた結果が、実はたまたまでしたってな」


 たぶんゴートさんは、実際に何度もそんなことを経験しているんだろうね。がははと笑うゴートさんの言葉には説得力がある。


「ただ、言ったろ。この森は餌が少ないんだ。まとまって動いていたら、せっかく獲物を見つけても争いになっちまうんだ。それに奴らが上位種になるためにも、少なくない餌が必要になるはずなんだがな」


 ゴートさんは僕たちと話をしながら、自分の考えを整理して考えているみたいだけど、考えて答えがでるようなものでもないらしい。


「あ、ゴートさん。ここが昨日僕たちが戦った場所です」

「おぉ、そうか。ちょっと俺はこの辺を調べてみるから、リューマたちは周辺の警戒と調査を頼む。ただし、声が届く範囲にいてくれ」

「はい、わかりました」

「あとアサシンゴブリンに襲われた場所を教えてくれ」

「はい、それでは私とメイがご説明いたします」

「じゃあ、リミは僕と一緒かな」

「うん!」


 結局二手にわかれる形になった僕たちだけど、さらにもう一歩突っ込んでみようかな?


『タツマ、モフと一緒にもう少し奥まで探ってみてもらえる?』

『いいぜ、ここにいても俺のやることはないしな』

『ゴブリンが一体、二体だったら倒してもいいけど、今日は調査だからあんまり無茶なことはしないでよ』

『わかってるよ。じゃ、行ってくるぜ』

『うん、よろしくね』


 タツマとモフを見送ると、耳と尻尾をぴこぴこしているリミの手を握る。なんだか手を握るのも久しぶりな気がしてちょっと気恥ずかしいけど、昔は当たり前のようにつないでたんだよね。


「よ、よし。じゃあ、僕たちも行こう」

「うん! なんだかふたりきりって久しぶりだね、りゅーちゃん」


◇ ◇ ◇


 それから、しばらく各グループで調査をしていると、ゴートさんの僕を呼ぶ声が聞こえたので襲撃現場に戻る。タツマたちからはまだ連絡はないけど、モフならゴブリンに囲まれても余裕で逃げられるはずなので心配ない。


「おうリューマ、戻ったか。そっちはどうだった?」

「はい、やっぱりここで戦ったゴブリンたちは、さらに森の奥から来たみたいです。足跡が残っていました」

「そうか、足跡はまっすぐだったか?」

「え? あ、はい。言われてみれば確かに奥から一直線に続いていたと思います」

「やっぱりな、これは急いだほうがいいかもな」


 僕の報告を受けたゴートさんの表情は真剣そのもの。僕にはまだよくわからないけど、状況はあんまりよくないらしい。


「あの……ゴートさんは、なにかわかりました?」

「ああ、これを見ろ」


 そう言ってゴートさんが放り投げてきたのは……小さな穴の開いた手のひらに収まる程度の白い塊だった。


「これは……え? まさか……この肌触りと質感、重さ。骨ですか?」


 ゴートさんは重々しく頷く。


「そうだ、しかもただの骨じゃない。骨笛だ」

「骨笛?」

「ああ、一部の知能の高い魔物が、仲間と連絡を取るために使う道具で普通の人間にはその音は聞き取れない」


 タツマの知識の中にある犬笛みたいなものか……おそらく周波数が人間の可聴領域外なんだろうな。たぶん僕の【音波探知】なら聞き取れるだろうけど。ただ、いまの問題はそこじゃない。そんな知能の高い魔物が使う道具がどうしてここにあるのかということだ。


「あの……これはどこに?」

「アサシンゴブリンが潜んでいたと思われる樹上に置いてあった。おそらく連絡用に持たされていたんだろうが、自分が死んだ場合のことも考えてこいつは樹上に残したままにしたんだろう」

「え! ちょっと待ってください。ということは、あのアサシンゴブリンには報告すべき相手がいるっていうだけじゃなく、なにかあっても魔物たちの情報が僕たちにばれないように行動する知恵と、忠誠心があるってことですか」


 僕の言葉が示す危険性を察したらしいシルフィとリミも驚愕の表情を浮かべている。上位種の中でもレアなアサシンゴブリンがそこまで従うほどの相手……少なくてもあと2ランクは上位の種がいる可能性が高い。最低でもゴブリンジェネラル以上?


『リューマ! 見つけた! 奴らの巣を見つけた!』


 事態の深刻さに声を失っていた僕に、切羽詰まったタツマの思念が届いたのはこのときだった。


短編を投稿してみました。

あんまり短編らしくないかも知れませんが、1万5千字ほどですので読んでみてください。

作者ページからどうぞ。

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