レナリア → 報告
「レナリアさん、ただいま戻りました」
担当になってくれたレナリアさんの列に並んでいた僕たちは、順番がくると笑顔で挨拶をする。
「はい、お疲れ様です。なにごともありませんでしたか?」
「えっと……あった、かな?」
「え! ちょっと待ってください。東の森に行って薬草を採取していたんですよね?」
正直に言ったほうがいいのかどうかがわからずに、曖昧な回答を返した僕にレナリアさんがずずいと身を乗り出してくる。レナリアさんの凛々しくも綺麗な顔がぐぐっと近くに迫ってきて、ちょっとどきどきしちゃうよ。
「いや、あの、近いです、レナリアさん。別に僕たちが危険な目にあった訳じゃなく……もないんですが」
戦闘の大半は問題なかったけど、シルフィが危うく死にかけたことを思い出してまたも言い淀んでしまった僕に、ふぅっと大きな溜息を吐いたレナリアさんは、自分の前の書類を揃えて、とんとんするとにっこりと微笑む。
「リューマさん、ゆっくりお話しを聞かせて頂きますね」
「はい……」
◇ ◇ ◇
結局二日連続で別室に案内された僕たちは、採取した薬草を提出しつつ、今日の出来事をレナリアさんへと報告した。
「東の森にゴブリンの群れ……ですか。しかも上位種の中でもかなりレアクラスなアサシンゴブリンが率いていた?」
報告を最後まで聞いたレナリアさんは、僕たちが途中まで作った地図を眺めながら形の良い胸を腕組みで押しあげつつ首をかしげる。タツマが僕の頭の上から身を乗り出して覗こうとしているので、とりあえず床に放り投げておく。すぐにタツマから抗議の思念が飛んでくるが、自分だけ覗こうなんて……じゃなくて女の人の胸元を覗きこむなんて失礼だからね。
「確かに最近、東の森でゴブリンを狩る冒険者は減っていました。初級冒険者でゴブリンを狩る者も、森の浅いところでしかゴブリンと戦っていません。今回、そのライナさんのパーティが襲われた場所は確かにやや奥に入ったところですが、それでもまだ浅層の範囲です」
「ライナさんたちは、浅いところにゴブリンがいなかったので奥に入りすぎてしまったって、言っていました」
「まずいですね……もしかするとジェネラル……いや、キングやクイーンまで進化した個体がいるかも知れません。最近は初級迷宮のほうでもおかしなことが起きているのに……これは偶然? それとも」
深刻な顔でぶつぶつとひとりの世界に入り込んでしまったレナリアさん。僕とシルフィはレナリアさんの考えがまとまるまで静かに見守る。ん? リミとメイ? リミがメイを膝に乗せたまま、ふたりともぐっすりです。
「ダメですね。これは私だけでどうこうできる問題じゃありません。とりあえず私からゴートさんに報告しておきます。おそらく東の森の調査依頼が出されることになると思います。その結果を受けて、もし大きな群れや巣ができているようなら緊急討伐依頼を出すことになるかも知れません」
なんだか大きな話になってきたみたい。でも街の近くでゴブリンが異常発生してたりするようだと街の人も安心できないから当然といえば当然なんだけど。
「問題は調査結果が出るまで東の森の立ち入りを禁止してもいいかなんですが……。リューマさん、今日の報酬も合わせれば二、三日収入がなくなっても大丈夫ですか?」
「え? ……あぁ! はい、僕たちは昨日買い取ってもらった魔晶のお金もあるので、しばらくは大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。いまは東の森をメインの稼ぎ場にせざる得ない初級冒険者パーティは、そう多くありませんから、一番なりたてのリューマさんたちが大丈夫ならなんとかなりそうです」
初心者向けの森だって言っていたから、そこを稼ぎ場にしているような人がいると、封鎖したときにその人たちが困っちゃうのか。でも、今日も森ではライナさんたちにしか会わなかったし、行きも帰りも人に出会わなかったから影響はあまりないのかもね。
でも、そうすると東の森が封鎖されている間、僕たちはどんな依頼を受ければいいんだろう。
「レナリアさん、東の森以外で僕たちが受けられるような依頼があれば教えてもらっていいですか?」
「そうですね……わかりました。明日までに検討しておきますので、また今日と同じ時間に来てもらえますか?」
「はい、よろしくお願いします」
「あれ? でも、リューマさんたちは今日ゴブリンをたくさん倒されたんですよね? パーティで十体倒せば中級冒険者への昇格条件が達成されますよ?」
「いえ、僕たちはライナさんたちの戦闘に勝手に割り込んだ形になるので、討伐証明部位や魔晶は全部お返ししました」
「え?」
レナリアさんが固まったのを見て、僕の隣でシルフィが口元を抑えて肩を震わせる。いや、そんな笑ったりしたら失礼じゃない? シルフィ。