解体 → 初級冒険者
「あの! ありがとうございました!」
アサシンゴブリンの魔晶と指の爪を回収して僕とメイが、皆のところに戻るやいなやライナと呼ばれていたリーダーらしい人が頭を下げてきた。
「あ、私たちも! ありがとうございました!」
「うん、助けていただいてありがとうございます」
それに続くように軽装で短剣を持っていたスイレンさんと、ローブを着たミルファさんの女の子たちも頭を下げてくる。スイレンさんは笑顔で元気良く、ミルファさんはもじもじとしながらも礼儀正しくはっきりと。シルフィはともかく、明らかに年下だろう僕やリミに対してもちゃんと頭が下げられるのは好感が持てる。まあ、それだけ絶望的だったのかも知れないけど。
「いえ、間に合ってよかったです。助けに来たのに、最後はばたばたしちゃって格好悪かったですけど」
「そんなことないです。あなたたちが来てくれなかったら、うちの男たちは絶対に死んでいたし、私たちも逃げきれない可能性が高かったもの。私とミルファにとっては命の恩人ならぬ、貞操と尊厳の恩人だわ」
スイレンさんは強引に僕の手を握るとぶんぶんと上下に振る。残念ながらスイレンさんの慎ましやかな胸原はそよともしなかったけど、本当に感謝しているんだなというのはよくわかった。
「そ、それならよかったです。とりあえず、ここにいるとゴブリンの死体に別の魔物が寄ってくるかも知れないので、取るものだけ取って街へ向かいましょう」
「確かにそうですね。ゴブリンの解体ですよね? 僕たちも手伝います」
「あ、いいですよ。僕たちでささっとやっちゃいますので。リミ、その子はどう?」
「もう大丈夫だよ。腕の骨折も接いだし、打撲なんかも治したから起こしても大丈夫だと思うよ」
怪我をして意識がないカイトと呼ばれていた男の人に【回復魔法】をかけていたリミが立ち上がって伸びをしながら説明をしてくれる。
「よかった。それじゃあ、僕たちが解体している間にその人を起こしてあげてください。街に帰るのに担いで帰るのは大変だと思いますので」
「あ、ああ、そうだよな。……うん、わかった。心配しなくていい、助けてもらってカイトまで治してもらったんだから勿論、倒したゴブリンたちは全部君たちのものだ」
うん? なにを言われているのか、よくわからないけど……まあ、いいか。
「メイ、シルフィとあっちからお願い。シルフィはメイの【解体】取得に協力してあげて。取るのは魔晶と爪だけでいいみたいだから」
ゴブリンの魔晶は小さいから、僕が母さんやリミに作ってあげたアクセサリみたいに飾りぐらいにしか使えないみたいだけど、売れない訳ではないみたいだからね。
「はぁい!」
「わかりました、リューマ様。メイちゃん、じゃあいきましょう。さっきはありがとうね」
「うん! でも、いつもはメイがシルフィにいっぱい助けられているんだからおあいこだよ」
「ふふ、そうですね」
仲睦まじく解体に向かうシルフィたちを見送って、僕とリミは逆側から解体していく。僕たちは【解体1】を持っているからさくさくと解体をしていく。
……いまさら解体することに忌避感はないけど、ゴブリンの生爪を剥がして持っていくというのはあんまり気持ちのいいものじゃないことに気が付く。これが狼系魔物の毛皮を剥ぐとかだとそんなこともないんだけど……不思議だよね。
『タツマ、死体を残しておくと疫病とかが怖いから、またよろしく頼むね』
『おう、まかせとけ』
解体が終わったゴブリンはタツマが片っ端から食べていく。結局ゴブリンの数は十四匹だった。メイも頑張って四匹解体してくれたので、この調子で頑張れば【解体】スキルが取得できるはず。
解体を終えて、ライナさんたちのところに戻ると、気絶していた人も意識を取り戻したみたいだったので、全員で街に向かって歩く。
その道すがら、意識を取り戻したカイトさんが僕たちに頭を下げてきた。
「俺はこいつらと同じパーティで活動している初級冒険者でカイトだ。今日は俺たちみんなを助けてもらったばかりか、俺の治療までしてくれたみたいで、本当に命拾いした。心から感謝する」
「あ! そう言えば俺たち、名前も名乗ってなかった!」
「「あ!」」
カイトさんが自己紹介をしているのを聞いて、自分たちが名乗っていないのに気が付いたらしい他のメンバーが慌てて名乗りを上げる。と言っても僕たちも名乗ってなかったから気にすることないんだけどね。つい、【鑑定】や今までの会話から名前を知っていたから全然気が付かなかったよ。
でも、せっかく知り合えた初級冒険者同士、できれば仲良くしたい。街までは歩けば一時間以上かかるんだから、僕たちも自己紹介していろいろ話しながら帰れるといいな。




