リミナルゼ → 訓練開始
名前: リミナルゼ
状態: 健常
LV: 3
称号: 村の子供 (なし)
年齢: 9歳
種族: 猫人族
技能: 採取3 料理3 手当2 裁縫1
特殊技能: 一途
才覚: 魔術の才《潜在》
僕は突然のリミの宣言に、唖然としながらもリミのステータスを確認していた。
リミ自身のレベルはまだ3だけどスキルの伸びがいい。結構頑張ってるけど未だにレベル2のスキルしかない僕に比べてスキルは4つだけど(これでも9歳としては破格の数だ)その内2つがレベル3になっている。
これはもちろん100%リミの努力の結果だと思うけど、リミの特殊スキルの恩恵もある気がする。リミの特殊スキルは【一途】。
これは『強い想いを長く抱き続ければ早く高みに達する』というスキルらしい。だからと言ってすぐに効果が出るようなものじゃなくて、どうも効果が表れ始めるのは最低でも5年くらいは気持ちが持続してなければならないみたいだ。ここ最近のリミの伸びが良いのはこの条件を満たしてきているからかもしれない。
ということは、リミは大分前から強く想っていることがあるということだ。リミもそんなに前から冒険者になりたいと思っていたということだろうか。それなら僕からは止めることは出来ない。
女の子だから危ないとか言えることはあるけど、僕のお母さんも立派な冒険者だった以上、それを理由に止めるのはお母さんを否定しちゃうことになるから出来ればしたくない。
「……リミがどうしてもって言うなら僕は応援する。でも、ちゃんとおじさんとおばさんには許可を貰わないと駄目だよ」
「ほんと!りゅーちゃん。リミも冒険者になっていいの?」
「え?……だって僕が冒険者になることを諦められないのに、リミにやめろなんて僕は言えないよ」
「そっか……うん!でも今はいいか。大丈夫、ちゃんとお父さんとお母さんにはこれから時間をかけて説得するよ。だから明日……ううん、今日の夕方から私もガードンおじさんとマリシャおばさんの訓練を一緒に受けることにする!」
お父さんとお母さんの訓練は結構厳しいんだけどいいのかな。でも、それで諦めちゃうくらいならまだ諦められる夢だったってことだからそれはそれでいいのかも。
「分かった。帰ったらお母さんたちに伝えておくから夕方、うちにおいで」
「うん!」
『きゅきゅん!』
っと、モフが帰って来た。
……周りを見てくるだけで、随分遅いと思ったら兎を狩って来たらしい。固くした2本の耳に兎が貫かれている。あぁもう、せっかっくのモフの白い毛が血塗れだ。でも、素早い兎をあっさりと仕留めて帰ってくるあたりモフは凄い。
この周辺はそんなに獣影が濃くないので、あんまり狩りには適していない。だから、この辺で狩った獣で小型のものは狩った人が持って帰っていいことになっている。つまりモフが狩った兎は僕達が持って帰って食べてもいいんだ。これはモフを褒めてあげないといけない。
「モフ!おいで」
『きゅん!きゅん!』
後ろ髪を引かれつつリミの太ももから離れてモフを出迎えると、まず兎を耳から外して、剣で首筋を裂いて血抜きをする。リミに後ろ足を持ってもらって血抜きを任せながらモフを川まで連れて行って洗いながらたっぷりと褒めてあげた。
その後、簡単に解体を済ませてから仕掛けを上げ、十匹程の魚と3匹のうなぎを手に入れてほくほく顔で村へと帰った。
村の財産を管理して配布する管理所に獲れた魚とウナギを預けてくる。獲って来た人の優先分として僕とリミで一匹ずつ魚を分けて貰った。後は、この日の村人たちの希望とか過去の配布状況などを考えて魚達は分配されていくことになる。
魚を手に、にこにこ顔のリミと一旦分かれて家に帰る。
「ただいま~」
「おかえり、リューマ。どうだった?」
お母さんは家にいたみたいだ、声は台所からかな。魚とか渡さなきゃいけないから丁度良かった。
「うん、大漁だったよ。はいこれ、大きいの1匹貰って来た。あとモフが兎を狩ってくれたからこれも。半分はリミにあげちゃったけど」
「あらあら……モフちゃん、頑張ったわねぇ」
『きゅきゅ~』
お母さんは魚と兎を受け取りもせずにモフを抱き上げて頬ずりしている。何気に僕の次にモフを溺愛しているのはお母さんだったりする。
僕は苦笑しながら魚をたらいに入れて水を張る。少しでも冷やしておかないと悪くなっちゃうからね。兎の肉は今日食べちゃうことになるだろうから取りあえず吊るしておく。毛皮は後で洗浄したりしてから、加工しなきゃいけないので井戸の方に持って行って干しておく。
家に戻って台所に行くと、魚を下ろしているお母さんに今日のリミの話をする。
「そう、リミちゃんがそう言ったのね……まあでもようやくというか、今更と言うか」
「え?」
「分かったわ、ミランやデクスが最終的に認めるかどうかは分からないけど、女の子だって身を守る為に戦えた方が良いに決まってるわ。今日の夕方の訓練から一緒にやりなさい」
なんだか拍子抜けするほど簡単に許可が出てしまった。でも、お母さんの言うことはもっともだ。ポルック村にいる以上常に魔物に襲われる危険はあると思っておかなきゃいけない。いざという時に戦闘系スキルを1つ持ってるか持っていないかは生死を分ける。そう教えてくれたのはお母さんだった。
結局、その日の夕方からリミは訓練に参加するようになった。ご両親の許可はまだみたいだけど、反対というわけではなくこれから努力をして、冒険者としてやっていけるだけの最低限の力を身に付けることが出来たら反対はしないということみたい。
夕方はお父さんによる剣の訓練。もう僕は基礎の段階は終えていて、最近はお父さんとの模擬戦に終始することが多かった。だから僕は1人で素振りと型の確認で、お父さんはリミの指導にかかりきりだった。
最初は9歳の女の子にデレデレしているお父さんにちょっとムッとしたけど、リミが想像以上に真面目な気持ちだということが分かるとお父さんも厳しく指導をしていた。
リミの体格や獣人として身体能力を考慮して剣は片手剣を使うのではなく小剣と呼ばれる普通の片手剣の半分くらいの長さの剣を両手に持って敏捷性を活かした戦いを想定していくみたいだった。
後は、後列からの攻撃手段として弓も並行していくらしく朝のお母さんの訓練では槍ではなく弓の練習をしていくことになった。
村の生活は身体が資本だったので、もともと基礎体力は備わっていたリミはお父さんたちの熱血指導を受けてぐんぐんと実力を付けていった。
ただ、ポルック村にはお母さんがごく弱い回復魔法を使えるくらいで、他に魔法を使える人がいなくて指導をしてくれる人がいないせいか、残念ながら【魔術の才】は潜在したままだった。