初依頼 → 達成
ちょい長めです。
「そうですか! 理解してもらえてよかったです。薬草は根から丁寧に引き抜き、葉や茎が折れないようにしてください。五本ごとに依頼達成として扱われるので五本ごとに根の付け根あたりを縛ってぶら下げて持ち運ぶのがいいと思います。乾燥してしまうのは品質に問題ありませんので気にする必要はありません。折れてしまって、中の成分が外に出てしまうと価値が落ちますので一本と認められなくなる可能性があります」
素直に依頼を受けると答えた僕たちにとっても素敵な笑顔を見せてくれたレナリアさんが、事細かに薬草採取のやり方について教えてくれている……んだけど、やっぱりそれも僕たちにとっては当たり前の知識なわけで。
「あの、レナリアさん」
「はい、なんでしょうか? あ、すみません。ちょっと早かったですか? もう一度最初から説明いたしましょうか?」
「いえいえ! そうではなくてですね。あの……僕たちはとても田舎の出身なので薬草とかは結構必需品だったんです。なので、結構子供のころから仕込まれていたので」
「……そ、そうでしたか! ふふ、すみません私ったら、リューマさんたちが知っているかどうかも確認せずにぺらぺらとお恥ずかしい限りです」
レナリアさんが恥ずかしそうに頬を赤らめながら、小さく頭を下げてくる。
「あ、とんでもないです! 田舎のやり方と違っている可能性もあったので、僕たちのやり方も間違っていなかったことが確認できて安心しました」
「それならよかったです。なんだか気をつかわせてしまったような気もしますけど。それでは『薬草採取』を受け付けますので皆さんギルドカードをお預かりします」
「はい、お願いします」
「はい、リミのも」
「メイのも!」
「ふふ、じゃあ一緒に渡しましょうね」
これで『薬草採取』クエストを受けることになったわけだけど、四枚のギルドカードを受け取ってカウンターの下で何やら作業をしているレナリアさんに念のために確認しておくことがある。
「レナリアさん、この近くで薬草が生えているところは確認したいので採取にはいくんですけど、提出する薬草はこの街に来るまでの間に採取した手持ちの薬草も合わせて出しても大丈夫ですか?」
「はい、構いませんよ」
作業をしながら頷いたレナリアさんはさらに続ける。
「『薬草採取』は冒険者になりたての方への支援も含まれた常時依頼ですから、五本で銀貨二枚の報酬がもらえます。この報酬は十本見つけてくれば安い宿にはなんとか泊まれるくらいですね。この依頼を十回ほど達成して頂いて、近郊のゴブリンを二体討伐するというクエストを五回達成すると中級冒険者へランクアップします」
「わかりました。でしたら、ひとり九回分の『薬草採取』クエストを四人分だから…………百八十本の薬草を先に提出しておきますね。残りの一回分は場所の確認を兼ねて、これから行ってきますので」
「はい?」
アイテムバッグから十本ずつにまとめた薬草の束を十八束取り出すと、綺麗にカウンターへ並べて置く。薬草、毒草、毒消し草、などなど多種多様のものを僕たちは合宿中に山の中で採取していたから、それぞれ凄い数をアイテムバッグに保管しているんだよね。薬草なんかは一年中生えるので、僕がひとりで狩りをしていた四年間だけでも四桁近く採取していたから全員分を提出しても在庫はまだまだある。
「……リューマさん?」
「はい、なんでしょうか、レナリアさん」
あれ? なんでだろう、カウンターの薬草をなんか投げやりな感じで指先で転がしながら僕を見るレナリアさんの目がちょっと怖い。
「……いや、いいんです。あなた方がいろいろ規格外だという可能性が高いということを、あなた方の見た目の雰囲気に惑わされて失念していた私が悪いんです」
「はぁ、すみません。なんだかご迷惑をおかけしたみたいで……」
小さな溜息を漏らすレナリアさんになんだか申し訳ないことをしたような気がして、僕も頭を下げる。
「いや、迷惑ではないんですよ? ただ、こう……初心者のリューマさんたちを立派な冒険者に私が導くんだ! なんて思いあがっていた私が恥ずかしいだけなんです」
「そんな、たまたま僕たちが田舎で集めた薬草を持っていただけですから。レナリアさんには一般常識とか、この周辺の薬草がある場所とか、一般常識とか、ダンジョンにいる魔物の種類と対策とか、一般常識とか、どんな依頼を受ければいいかとか、一般常識とかたくさん教えて欲しいですから」
「どれだけ一般常識に飢えているんですか! ……なんだかリューマさんたちだけで活動させるのが不安でしょうがないです」
あはは……実は僕たちも同意見ですレナリアさん。
『いっそ、この受付嬢をパーティに加えちまえばいいんじゃねぇの?』
『いや、それは駄目でしょ。勝手に引き抜いたらゴートさんだって困るし、他の冒険者から顰蹙を買うに決まってるよ』
『それもそうか……どっちにしろ基本的なことは早めに覚えないとな。飯の注文すら怪しいなんて、あり得ねぇぞ』
『わかってるよ、注文の仕方はなんとなく覚えたし、買い物のやり方もこの前の村で覚えたから大丈夫だって』
『ならいいけどな』
「本当はこの採取依頼もひとつのパーティに十回でいいんですよ? ひとりにつき十回じゃなかったんです…………でも、質もよくて、処理も完璧な薬草をこれだけ納品して頂けるのはギルドとしも助かりますから、遠慮なく受け付けさせてもらいますけど」
なんとか持ち直したらしいレナリアさんは薬草を受け取ると、処理を終えたギルドカードを金貨八枚と一緒に僕たちに返してくれた。
「あれ? 五本で銀貨二枚だと金貨七枚と銀貨二枚じゃないんですか?」
「質の良い薬草を大量に納品してくださったので割増報酬が銀貨八枚です」
「なるほど……ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。あと一回分の採取にいかれるのであれば、薬草がよく取れるのは東門から出て一時間ほどのところにある森がいいと思います。あそこは魔物も少ないですし、落ち着いて採取ができるはずです」
採取場所を教えてくれたレナリアさんの表情がちょっと曇る。なにかあるのだろうか?
「その森になにか問題があるんですか?」
「いえ、森には問題ありません。むしろ、最近の初心者さんは採取済みの薬草を店で買ってきて納品してしまう人が多いので、森の薬草が減ってなくて採取には適していると思いますよ。本当はちゃんと自分たちで見て、探して、採取の仕方を覚えて欲しいのですが……」
なるほどね、往復二時間かけて薬草を取りに行くよりも、その辺のお店で薬草を買ってしまったほうが楽だ。例え、銀貨三枚で薬草を五本買っても、納品すれば銀貨二枚戻ってくるわけだから実質銀貨一枚で依頼達成数をひとつ買えることになる。まあ、でもよその人はよその人だよね。僕たちは父さんたちみたいな立派な冒険者になるんだから、自分たちの経験になるようなことはちゃんとやる。
「じゃあ、レナリアさん。僕たちはもう行きますね」
「はい、お気をつけていってらっしゃいませ。あ! ちなみに聞いておきますけど、ゴブリンの討伐証明もたくさんもっていたりしませんよね?」
「ゴブリンはたくさん倒したことありますけど、討伐証明がなんなのかわからなかったので……魔晶しか回収してないんです。なにを持ってくればいいですか?」
「そうですか、たくさん倒しているんですね……いえ、なんとなくそんな気はしていましたから、大丈夫ですとも」
「レナリアさん?」
なんだか遠い目でぶつぶつと呟いているレナリアさんに声をかけると、はっとして正気に戻ったレナリアさんがこほんと小さな咳ばらいをする。
「ゴブリンの討伐証明と素材は爪です。親指の爪二本で一体分の証明になります。その他の爪も安いですが買い取り対象になりますので余裕があればお持ちください」
「はい! いろいろありがとうございました。ではいってきます」