査定 → 鑑定
これで100話到達です。
「すみません! お待たせいたしました」
ゴートさんが出ていってから間もなくしてレナリアさんが戻ってきた。待たせてしまったと思ってなのかしきりと頭を下げて謝罪しているが、ゴートさんが乱入したせいで時間の経過はあまり気にならなかったのでまったく気にしていない。
「いえ、そんなに待ってませんから気にしないでください」
「ありがとうございます。ちょっと査定に時間がかかってしまいまして……そのかわり査定はしっかりやってもらいましたからご満足いただける買い取り額を提示できると思います」
誇らしげに胸をはるレナリアさんだけど、どんな金額を提示されても僕たちには相場がわからないから何も言えない。僕の【目利き】はそのものの価値はわかるけど、その価値には相場などは反映されてはいない。例えば【目利き】で銀貨一枚と【鑑定】された魔晶があったとする。でも、世の中にそれと同じ魔晶が腐るほど流通していたら銀貨一枚では売れなくなるし、逆にそれがとても希少だったらプレミアがついてもっと高値で売れる。でも僕の【目利き】では常に銀貨一枚という結果が出るだけなんだ。
「それでは、ご説明いたしますね。お預かりした魔晶を便宜上三種類に分けさせていただきました。まず一番小さかったこの大きさのもの、こちらが二十七個。これをひとつにつき銀貨三枚。次にひとまわり大きいこの魔晶、これは十九個、これをひとつにつき銀貨五枚。一番大きなこの魔晶が十二個、こちらは金貨一枚で買い取りさせていただくことにしました」
綺麗に一階層から三階層の魔晶が階層ごとに選別されたみたいだ。どのサイズの査定も俺の【目利き】よりは高いから本当にレナリアさんが頑張って交渉してくれたみたいだ。
「はい、それでお願いします。そこから登録手数料とメイの鑑定紙の代金は引いてもらってもいいですか?」
僕もタツマの知識から四則演算のやり方を受け継いでいるから計算ができないわけじゃないんだけど、暗算だと計算は面倒くさい。今回は銀貨と金貨だけど、お金は銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚だから三種類混ざってくると余計にめんどくさくなるんだ。
「わかりました。買い取り金額は合計で金貨二十九枚と銀貨六枚です。これから鑑定紙の金貨五枚と登録料の一人金貨一枚。メイさんの分まで含む前提で金貨四枚。この分を差し引き、金貨二十枚と銀貨六枚になります」
レナリアさんはてきぱきと計算すると机の上に金貨十枚を重ねた塔をふたつと銀貨六枚を並べ、僕たちの前へ少し黒ずんだ手のひらサイズの紙を差し出してきた。
「それから、これが鑑定紙になります。この紙を両手でしばらく挟んでいただくとステータスが表示されることになります。この鑑定紙は使用した方にお渡ししますし、結果は担当である私だけが確認します。内容は原則として秘匿され、特段の事情がない限りギルドマスターにすらお知らせすることはありませんのでご安心ください。対外的には鑑定紙で確認した事項が登録に問題がないものだったということだけを、私が私の名前で証明するだけです」
「わかりました。じゃあ、メイ。これを両手で挟んでもらえるかな?」
「これ? うん、わかった」
いま、メイのステータスには僕の【統率】で共有した【偽装】で改変したものが表示されている。だから鑑定紙も騙せると思っているんだけど……これでだめなら正直にレナリアさんに事情を話すか、ゴートさんに直接相談する形になるだろう。正直ふたりとも会ったばかりの人で、そんな大事なことを話してもいいのかどうか不安がないわけじゃないけど、ポルック村を初めて出てきた僕たちには他に頼れる人はいない。
メイの手に挟ませた鑑定紙が望み通りの文字を表示してくれるのを祈りながら、僕たちはしばし静かな時間を過ごす。
「はい、もう結構です。まずはご自分で確認してください」
レナリアさんに言われてメイの手から鑑定紙を取り出すと黒ずんでいた部分が文字の形に白く反転している。へぇ、こうやってステータスを表示するのか。っと、問題はメイのステータスだった。えっと、どれどれ。
名前:メイ
LV:2
年齢:14歳
種族:半小人族
技能:なし
特殊技能:なし
よし、うまくいった。普通の【鑑定】では状態、称号、才覚なんかはそもそも表示されない。それは鑑定紙でも同じことのはず。だからさしあたって僕が【偽装】しなくちゃいけなかったのはメイの年齢と種族だった。そこでメイの年齢を十四歳に【偽装】して、種族を……悩んだ末に小人族と人族のハーフという形にした。小人族というのはほとんど人前に出てこない種族で、成人でも大人の腰くらいまでしか大きくならない。だから、年齢の割に幼い容姿をしているメイを誤魔化すにはちょうどいい。人前に出てこない種族なのにどうしてと言われるリスクは人族とのハーフなので、里の一族から追い出されたという設定にした。勿論、聞かれない限り説明するつもりはないけどね。
「では、レナリアさん。これを」
「はい、お預かりいたします……なるほど、わかりました。確かに十四歳であることは間違いないですね。登録のほうは問題ありませんが、まだレベルも二ですしスキルもないのでは一緒にダンジョンにいくのは危険ではないですか?」
確かにレナリアさんのいうとおりだろう、普通なら。でも、ことがダンジョンの中ということなら、メイにとってはむしろ安全安心の環境なんだから問題はない。ちゃんと僕たちもメイのことを守るしね。
「大丈夫です。僕たちはこう見えても結構強いので、ダンジョンの低階層くらいならメイを守りながらでも戦えます。その間にメイのレベルが上がれば、街でひとりで待っているよりも結果的には安全になると思うんです」
「……そうかも知れませんね。すみません、出すぎたことを申しました」
いきなり頭を下げるレナリアさんに僕は手を振って慌てて言葉を繋げる。
「いえ、レナリアさんが僕たちのことを心配してくれているのはよくわかっていますから。初めて会ったばかりの、こんな田舎者の僕たちに良くしてくれて、本当にありがとうございます」
「そんな! これが私の仕事ですから。そ、そうだ! みなさん今日街に着いたばかりでお疲れですよね。ギルドの説明についてはご案内する宿のほうで食事でもしながらお話ししましょう」
お読みいただきありがとうございます。なんとか100話まできました。
別連載の魔剣ハーレムの二巻発売を明後日に控えてそちらの更新を優先しているため更新が遅れ気味です。