6.たくましい二人
ハープの危機を救ったのは、レンジのよく知る二人だった。
閃光のような剣さばきに、三体のベアは次々と倒されていく。
火傷を負わされて復讐に燃え、牙をむき出しにしていたベアは、再び森の中へと消えていった。
そこには、剣を斜めに振ってベアの血を払うシアードと、フレア草を抱えたセレスの姿があった。
「遅いと思ったらこんな奥まで来てたのか。
何やってんだ全く。
そこらにあるだろう。」
少し強めの口調だった。
感情をあまり表に出さないはずのシアードの声に、レンジの身はびくっ、と強張った。
いつも淡々としており口数も少ない彼だが、この時ばかりは少々お怒りだ。
そこらにあるもののために、わざわざベアの縄張りに足を踏み入れたこと。
見ず知らずの少女を連れまわし、危険な目に合わせたこと。
それらは、少年の事を想うからこその怒りだ。
シアードの言葉から、フレア草はこんな奥まで来なくても手に入るものだという事が惚れた少女に知られてしまった。
その事実が、レンジの顔を赤面させた。
「ベアにやられちゃったのかと思ったわ。
あら、その子は?」
セレスは、へたり込んだままでいる華奢な少女に目を向ける。
二の腕にある、擦りむいたであろう傷が目に入る。
レンジとセレスは、十年以上の仲である。
そこには、華奢で可愛らしい少女がいて、目を凝らせば実はそこらじゅうに生えている珍しくも何ともないもののために、わざわざこんな森の奥までやってきては、崖中のフレア草を採る。
この状況からして、年下のレンジの考えが手に取るように分かったセレスは、思わず笑みがこぼれた。
「レンジを許してあげてね?
あの子、悪気はないのよ。」
そう言いながら、ハープの傷口に優しく手のひらを当てる。
ふわあっ、とした包み込むような感覚が傷口に走ったかと思うと、先程まであった傷がきれいに消えていた。
「これでよし、と!
女の子だからね。
体に傷をつくっちゃダメ。」
「は、はい。
ありがとうございます。」
初めての感覚にハープは戸惑いを隠せなかったが、同時にレンジの日常が垣間見えたことで、とても暖かい気持ちになった。
自分の故郷では、到底味わうことのない心情だった。
「レンジ、今日はポートベリーに船が来る。
ここまで来たのなら、港までお前が送ってやれ。」
「本当はあんただけじゃ不安なんだけどね。
私達、ご飯の支度もあるし、フレア草もベアも狩ったし。
それじゃあね!」
そう言い残した二人は、セレスが持ち歩いている皮の鞭でベアの後足を慣れた手付きで結ぶ。
三体のベアが一列に並んだところで、それらはシアードにずるずると引きずられていく。
来た道と逆方向に戻っていく二人の背中は、とても、とてもたくましく感じた。
それは、ハープも同じ気持ちであった。
「あの、これ。
ほんとはすぐ見つかるモンなんだ。
……ごめんな。」
そう告げて、フレア草を彼女に手渡した。
「ううん、ありがとう。
レンジがいなきゃ、私じゃ見つけられなかったもん。
あと少し、港までお世話になります。」
にっこりと優しく微笑むハープにつられて、照れ笑いをするレンジであった。




