4.攻撃魔法
「……すげぇ。」
思わず声が漏れるほど、彼女は強かった。
この森の中には魔物がいる。
ごく稀に人里へと降りては農作物を荒らしたりするが、人を襲うことなどほぼ無かった。
護身用の武器を持っていれば、有に倒すことが出来るのだ。
レンジは、オリバに武術を幼いころから叩き込まれていた。
シアードのように剣を振るうことは苦手であったが、彼の素早い動きから繰り出される拳や蹴りは、護身用の武器などまるで必要としなかった。
武器を持たずして魔物が倒せるというのが彼の自慢であったが、目の前の彼女がそれを打ち砕く。
何かを呟いたかと思うと、両手から火の玉が現れた。
そして彼女は、自分の倍以上はある熊型の魔物「ベア」に火の玉を投げつけた。
拳や蹴りで気絶させ、時には毛皮や食糧として持ち帰る。
ベアが衝撃によって倒れる姿は幾度となく見てきたが、背と尻尾を向けて逃げ出す姿など、彼は生まれてこの方見たことがなかった。
「ハープ、すげえよ!
俺、魔法なんて初めて見たよ!」
興奮が冷めやらぬまま彼女に話しかけ、困惑を誘う。
「そ、そうなの?
私の国ではみんな魔法が使えるよ。
さっきの魔法はほんとに初歩的な魔法だから、全然すごくないんだよ。
でも、嬉しいな。
レンジは魔法を見るのは初めて?」
「うん、ん?
いや……そういえば、セレスって奴がいてさ、怪我をしたときに魔法で治してくれるんだ。
でも、さっきみてぇな攻撃の魔法なんて初めてだよ!」
「へぇ、珍しいね。
治癒の魔法なんて、エルフくらいしか使えないはずなのに。」
「エルフって……。
アイツはそんな可愛いモンじゃねぇよ。」
今日一番の機嫌を損ねてきた、気の強い少女の顔が浮かんだレンジは、苦虫を噛み潰したような表情をする。
それを横で見ていた彼女は、くすくすと笑うのだった。