兄妹だからわかること、兄妹にしかわからないこと
「美海ちゃん、よかったな!」
「うん!」
まだ問題が解決したわけではない。
しかし、透花の部屋を後にしても美海の表情からは笑みが消えなかった。
「はやてにい、みう、これお部屋にしまってきたい!」
「うん、そうしようぜ! 大切なものだから、なくしたら大変だもんな!」
二人は再び手を繋ぐと、心と美海の部屋へと向かう。
美海は部屋に入ると、バレッタを丁寧に宝箱に仕舞う。
そして扉を出たところで、任務帰りの心に出くわしたのだ。
「しんにい! お仕事終わったの?」
「うん、今日の分はもう終わり……」
「はやかったね! お疲れさま!!」
「ありがと……。美海は、颯くんと遊んでたの?」
「あっ、えっと……」
“遊ぶ”という表現は正しくないと、彼女は思ったのだろう。
思わず、言い淀んでしまう。
「……どうしたの?」
いつもと違う妹の様子に、兄である心が気付かないわけがなかった。
「……美海ちゃん、心に話してみようぜ!」
黙り込んでしまった美海に、颯は明るく声をかける。
「でも……」
「美海ちゃんの兄ちゃんなんだから大丈夫だって! それに、お願いされるよりも隠し事をされてる方が嫌かもしれないじゃん!?」
「美海が僕に、隠し事……?」
「ちゃ、ちゃんと話すから! だからしんにい、そんな顔しないで……!」
(え、心、俺にはいつもと同じように見えるけど……)
さすが妹だ。
ほんの少しの表情の変化で、兄がショックを受けていることが分かるらしい。
それは、他人である颯には全く分からないほどの小さな変化だった。
「あのね、しんにい……」
美海はぽつりぽつりと、事情を説明し始めた。
「……美海もやっぱり、女の子なんだね」
美海の話が終わり、心が最初に発した言葉がこれだ。
「え……?」
「……ちょっと待ってて」
ぽかんとしている美海と颯を置いて、心は部屋の中に入っていく。
「……心、もしかして怒ってんのか?」
「ううん、怒ってる顔じゃなかったけど……」
よくわからないまま、二人はその場に取り残されたのだった。