お揃いのバレッタ
「美海ちゃん、ごめんね……」
透花は、申し訳なさそうに言う。
颯と美海は屋敷に戻ると、すぐに透花の元へと向かい事情を説明した。
しかし、透花から戻ってきたのはこの言葉だったのだ。
「昔着ていた服は、全て処分してしまったからないの。髪飾りも、今使っているものならあるけれど……」
そう言うと透花は、ヘアアクセサリーを収納しているボックスの中身を見せる。
「ちょっと美海ちゃんには、大人っぽいよね……?」
「うん……」
そこに入っていたのは、落ち着いたデザインのバレッタやカチューシャばかりだった。
小学生がつけるような、かわいいヘアピンやヘアゴムは一つも入っていない。
美海の表情が、見る見るうちに暗くなっていく。
「あ、諦めんなよ美海ちゃん! どうしたらいいか、また一緒に考えようぜ!」
颯の焦り方と美海の顔を見て、透花は事態が思っているよりも深刻だということに気付く。
彼女はボックスからバレッタを一つ取り出すと、美海に差し出した。
そして、優しい声で言う。
「これ、美海ちゃんにあげる」
美海は、悲しそうな顔で首を横に振った。
「でも、とうかねえに悪いし、こんな大人っぽいのみうには似合わないよ……」
それは、濃いピンク色の薔薇が咲いたアンティーク風の上品なデザインのものだ。
「実はこれ、美海ちゃんとお揃いでつけたいなって思って買ったんだ。ほら」
透花は、ボックスからもう一つバレッタを取り出して見せる。
花の色が若干薄いものの、美海に差し出したものと全く同じデザインである。
「確かにこれは、今の美海ちゃんがつけるにはまだ早いかもしれない。でも何年か経てば、こういうのが似合う素敵な女の子になっているよ。その時がきたら私と一緒につけてほしいんだけど、ダメかな?」
「でも……」
美海の心は揺れていた。
彼女にとって透花は、いつも優しく美しい憧れの存在だ。
そんな透花に“迷惑をかけたくない”という想いと、“お揃いのものが欲しい”という想いが錯綜しているのだ。
「……ありがとう、とうかねえ」
しばらくの沈黙の後、美海が導き出した答えは是の方だった。
“お揃いのものが欲しい”という想いが勝ったようだ。
透花は頬を緩めると、美海にバレッタを手渡す。
「大事にしてね」
「うん! ありがとう!」
美海も笑顔で、しっかりとそれを受け取った。