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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第九話 薔薇の笑顔は美しい
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いもうとのきもち

「……別に、いじわるな言い方されたわけじゃないんだよ。だって、みうも自分のことそう思うもん。でも、悲しかったんだ……」


 颯は静かに、美海の話を聞いている。


「みうはみんなみたいに、ふわふわのスカートも、きらきらのヘアゴムも持ってない……。ほんとはみうだってほしいけど、そんなの買ってなんてしんにいに頼めないもん……!」


 美海の目からは、再び大粒の涙が流れていた。






 美海の家は、貧しかった。

 父親は、美海が物心ついた頃にはすでにいなく、今までは母親が女手一つで兄妹を育ててきた。

 しかし母は、無理がたたり体を壊してしまった。

 働けなくなってしまった彼女の代わりに、心が家計を支えなくてはならない。

 彼は、平日は高校に通い、休日は一色隊の仕事をこなすという生活を送っているのだ。

 そこから、故郷に残った母親への仕送りや、自分と美海の学校にかかる雑費などを引くと、ほとんどお金は残らなかった。

 透花は金銭の援助を申し出てくれたが、高校の授業料をすでに出してくれている上に、住む場所まで提供してくれている。

 それ以上の迷惑はかけたくないと思い、心はこの申し出を断っていた。

 そんな状態の心に、自分のわがままを言うことは、美海にはどうしてもできなかったのだ。






「買えないってわかってるけど、やっぱり欲しくて……」

「……だから、一人でお店の前にいたのか」

「うん……」


 美海は、ハンカチで涙を拭きながら言う。

 まだ小学生になったばかりの彼女には、辛い体験だっただろう。

 みんなが持っているものを、自分は持っていない。

 持っていないからといって、手にする術もない。

 自分が我慢すれば全てが丸く納まるとはわかっていても、まだ子どもである。

 我慢できなくて、当たり前なのだ。






「……よし! さっきのお店行こうぜ! 俺が買ってプレゼントする!」


 颯は、努めて明るく言った。

 彼も同じように、平日は高校、休日は仕事と二足の草鞋をはいている。

 しかし、心のように養う家族がいない分、いくらか懐は暖かいのだ。


「それはダメ!」


 美海は、強い語気で颯からの申し出を断る。


「はやてにいに悪いもん! それに、しんにいにお願いできないからってはやてにいに頼ったら、しんにいは絶対悲しむよ……」


 故郷に母親はいるが、今はたった二人の兄妹なのだ。

 その大切な兄を悲しませたくないという純粋な想いが、言葉を通して颯に伝わってくる。


「……そうだよな。わりぃ! 気が利かなくて……」


 颯は必死に考えた。

 心を傷付けることなく、美海が笑顔になってくれる方法を。

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