いもうとのきもち
「……別に、いじわるな言い方されたわけじゃないんだよ。だって、みうも自分のことそう思うもん。でも、悲しかったんだ……」
颯は静かに、美海の話を聞いている。
「みうはみんなみたいに、ふわふわのスカートも、きらきらのヘアゴムも持ってない……。ほんとはみうだってほしいけど、そんなの買ってなんてしんにいに頼めないもん……!」
美海の目からは、再び大粒の涙が流れていた。
美海の家は、貧しかった。
父親は、美海が物心ついた頃にはすでにいなく、今までは母親が女手一つで兄妹を育ててきた。
しかし母は、無理がたたり体を壊してしまった。
働けなくなってしまった彼女の代わりに、心が家計を支えなくてはならない。
彼は、平日は高校に通い、休日は一色隊の仕事をこなすという生活を送っているのだ。
そこから、故郷に残った母親への仕送りや、自分と美海の学校にかかる雑費などを引くと、ほとんどお金は残らなかった。
透花は金銭の援助を申し出てくれたが、高校の授業料をすでに出してくれている上に、住む場所まで提供してくれている。
それ以上の迷惑はかけたくないと思い、心はこの申し出を断っていた。
そんな状態の心に、自分のわがままを言うことは、美海にはどうしてもできなかったのだ。
「買えないってわかってるけど、やっぱり欲しくて……」
「……だから、一人でお店の前にいたのか」
「うん……」
美海は、ハンカチで涙を拭きながら言う。
まだ小学生になったばかりの彼女には、辛い体験だっただろう。
みんなが持っているものを、自分は持っていない。
持っていないからといって、手にする術もない。
自分が我慢すれば全てが丸く納まるとはわかっていても、まだ子どもである。
我慢できなくて、当たり前なのだ。
「……よし! さっきのお店行こうぜ! 俺が買ってプレゼントする!」
颯は、努めて明るく言った。
彼も同じように、平日は高校、休日は仕事と二足の草鞋をはいている。
しかし、心のように養う家族がいない分、いくらか懐は暖かいのだ。
「それはダメ!」
美海は、強い語気で颯からの申し出を断る。
「はやてにいに悪いもん! それに、しんにいにお願いできないからってはやてにいに頼ったら、しんにいは絶対悲しむよ……」
故郷に母親はいるが、今はたった二人の兄妹なのだ。
その大切な兄を悲しませたくないという純粋な想いが、言葉を通して颯に伝わってくる。
「……そうだよな。わりぃ! 気が利かなくて……」
颯は必死に考えた。
心を傷付けることなく、美海が笑顔になってくれる方法を。