少女は、泣き崩れた。
とある休日、心の妹である結城美海は一人で街に出ていた。
女の子が好きそうなアクセサリーショップを、憧れの眼差しで窓の外から眺めている。
「美海ちゃん、何してんだ?」
「あ、はやてにい……」
そんな彼女に、声をかける人物がいた。
兄と同じく一色隊に所属する、緒方颯だ。
彼は女性を苦手としているが、美海には普通に接することができる。
相手を”女性”として認識するかどうかがポイントなのだ。
美海は颯にとって”少女”であるため、いつも通りの自分でいられるというわけだ。
しかしこの男、絶世の美女である透花を見てもなぜか態度は変わらない。
彼曰く、透花を見ても”女性”を感じないらしいのだ。
「一人で来たのか?」
「うん……」
「ここは屋敷からちょっと離れてるから、一人でなんてあぶねーぞ! 心は?」
「しんにいは、今日はお仕事……」
「心の奴、がんばるなあ! 平日は学校に行って、休日は働いてさ!」
「うん……」
「うおおおお! 俺も負けてらんないぜ! 今度の週末は任務を……!」
「そうだよね……。しんにいはすっごくがんばってるよね……。だからみうは、わがままなんか、わがままなんか言っちゃダメなんだもん……!」
美海の瞳には、みるみる内に涙が溜まっていった。
なんとか耐えていたが、すぐに一粒の雫が流れ落ちる。
すると彼女は、堰を切ったかのように声を出して泣き出してしまった。
「うわあああああん!!」
「えっ、ちょっ!? 美海ちゃん!?」
美海が泣いた姿を見たことがなかった颯は、動揺することしかできない。
この男、他人からの怒りの感情には鈍くあまり動じない。
その反面、悲しみや涙というものには滅法弱いのだ。
すぐに美海を泣き止ませる術など、持っているはずがなかった。
美海の泣き声は、どんどん大きくなっていく。
「……美海ちゃん! 公園にあるアイスクリーム屋さんに行かね!? アイス食おう!」
「アイス……?」
「おう! 美海ちゃんの好きなやつ選んでいいぜ!」
「雪だるま……」
「雪だるま……?」
「雪だるまあぁぁぁ~!!」
「……あぁ! 二段重ねか! もちろんいいぜ! 二段でも三段でもどんとこい!」
颯が思いついたのは、食べ物で釣るという作戦だった。
しかし、これが功を奏したようだ。
美海の泣き声は徐々に小さくなっていく。
「アイス、食べる……!」
「よし! じゃあ行こうぜ!」
(美海ちゃんがまた泣き出す前に移動しねーと……!)
颯は、美海の手を引いて目的地の公園へと向かったのだった。