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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第九話 薔薇の笑顔は美しい
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少女は、泣き崩れた。

 とある休日、心の妹である結城美海は一人で街に出ていた。

 女の子が好きそうなアクセサリーショップを、憧れの眼差しで窓の外から眺めている。


「美海ちゃん、何してんだ?」

「あ、はやてにい……」


 そんな彼女に、声をかける人物がいた。

 兄と同じく一色隊に所属する、緒方颯だ。

 彼は女性を苦手としているが、美海には普通に接することができる。

 相手を”女性”として認識するかどうかがポイントなのだ。

 美海は颯にとって”少女”であるため、いつも通りの自分でいられるというわけだ。

 しかしこの男、絶世の美女である透花を見てもなぜか態度は変わらない。

 彼曰く、透花を見ても”女性”を感じないらしいのだ。


「一人で来たのか?」

「うん……」

「ここは屋敷からちょっと離れてるから、一人でなんてあぶねーぞ! 心は?」

「しんにいは、今日はお仕事……」

「心の奴、がんばるなあ! 平日は学校に行って、休日は働いてさ!」

「うん……」

「うおおおお! 俺も負けてらんないぜ! 今度の週末は任務を……!」

「そうだよね……。しんにいはすっごくがんばってるよね……。だからみうは、わがままなんか、わがままなんか言っちゃダメなんだもん……!」


 美海の瞳には、みるみる内に涙が溜まっていった。

 なんとか耐えていたが、すぐに一粒の雫が流れ落ちる。

 すると彼女は、堰を切ったかのように声を出して泣き出してしまった。


「うわあああああん!!」

「えっ、ちょっ!? 美海ちゃん!?」


 美海が泣いた姿を見たことがなかった颯は、動揺することしかできない。

 この男、他人からの怒りの感情には鈍くあまり動じない。

 その反面、悲しみや涙というものには滅法弱いのだ。

 すぐに美海を泣き止ませる術など、持っているはずがなかった。

 美海の泣き声は、どんどん大きくなっていく。


「……美海ちゃん! 公園にあるアイスクリーム屋さんに行かね!? アイス食おう!」

「アイス……?」

「おう! 美海ちゃんの好きなやつ選んでいいぜ!」

「雪だるま……」

「雪だるま……?」

「雪だるまあぁぁぁ~!!」

「……あぁ! 二段重ねか! もちろんいいぜ! 二段でも三段でもどんとこい!」


 颯が思いついたのは、食べ物で釣るという作戦だった。

 しかし、これが功を奏したようだ。

 美海の泣き声は徐々に小さくなっていく。


「アイス、食べる……!」

「よし! じゃあ行こうぜ!」


(美海ちゃんがまた泣き出す前に移動しねーと……!)


 颯は、美海の手を引いて目的地の公園へと向かったのだった。

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