小指に誓う
演奏を終えた奏太に送られたのは、虹太からの大きな拍手と満面の笑みだった。
「奏太くん、すっっっっっごくいい演奏だったよ!」
虹太の感想を聞き、奏太はほっとしたようにため息を吐いた。
「本当ですか!?」
「うん☆ お友達も、絶対に喜ぶと思うよ! だって、奏太くんが真剣に、それでいてとても楽しく取り組んでるのが伝わってくる演奏だったもん。……奏太くんの演奏を聴いて、俺も負けてられないなって思ったよ~」
「あの、椎名さん……? それって一体どういう……」
「……奏太くんのピアノを聴いてたら、俺もまた弾きたくなっちゃったんだー。だから、もう一回始めてみようって思ってさ」
この言葉を聞き、奏太は笑顔を弾けさせる。
それは、虹太が彼と出会ってから見た笑顔の中で一番輝いているものだった。
「椎名さんのピアノが聴けるんですか!? 実はこの間、椎名さんが帰った後に先生からCDを借りて聴いたんです! 僕が今まで聴いてきたどんなピアニストよりも、素敵な演奏だなって思いました!」
「わ~、ありがとう! そんなに褒めてもらえるなんて嬉しいな☆」
「あ、あの……! 今ここで弾いてもらうってことは……!?」
「う~ん、今すぐにってわけにはいかないかな」
「そ、そうですよね……」
興奮気味に言う奏太を、虹太は軽く流してしまった。
それに対しショックを受けている奏太に、虹太は笑顔を見せる。
「……俺も一応ピアニストの端くれだからさ、せっかく聴いてもらえるなら万全の状態のものを聴いてほしいんだ。もう何年も鍵盤に触れてないから指も鈍っちゃってるし、リズム感も狂っちゃってると思う。だから、それを取り戻すまで時間をくれない? 奏太くんにとってのお客さん第一号が俺だったみたいに、俺も最初のお客さんは絶対に奏太くんにお願いするから! 約束する!!」
そして、右手の小指を奏太に向かって差し出した。
その意図に気付いた奏太は、にっこりと笑うと自分の右手の小指を絡める。
「はい、約束です。僕、楽しみに待ってます!!」
「うん♪ 奏太くんが小学生の内に、約束果たせるといいな~」
二人の手が離れる。
それぞれの小指に誓った約束が果たされるのは、そう遠い未来のことではないだろう――――――――――。