再び、輝き出す
(そう、ここはリタルダントをかけることによって、ロマンチックに聴こえるんだ。次にクレッシェンドで……)
虹太の指は、自然と膝の上で動いていた。
それは、最近ピアノから離れていたとは思えないほど流麗な動きだった。
(どうして俺の前には、鍵盤がないだろう……)
そう考えたことにより、彼は気付くことになる。
今まで封じ込めていた、自分の本当の気持ちに。
(ピアノが、弾きたい……!)
一度そう思ってしまえば、溢れ出した気持ちは止まらない。
ピアノを弾きたいという欲求に駆られ、どうしようもなくなる。
(……もう、昔みたいには弾けないだろうなぁ。散々サボっちゃった上に、あんなこともあったし……)
虹太は、自分がピアノを辞めるきっかけとなった出来事を思い出した。
だが、彼の瞳には光が宿っていた。
それは、過去の闇など振り払えるくらい大きいものに違いない。
(別に、昔みたいに弾けるようになる必要なんてない。俺はやっぱり、ピアノが好きなんだ。……ううん、ピアノだけじゃない。音楽を愛してる。だから弾きたい。それで充分だよね)
虹太は涙を力強く拭うと、再び奏太の演奏に集中する。
彼は、なんとも清々しく、幸福そうな表情をしていたのだった――――――――――。