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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第八話 ローズマリーが奏でる音
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零れる

 あっという間に、奏太と約束をした当日になった。

 虹太は、先日の楽器店へと向かう。

 あれ以来、辛い記憶を夢で見ることはさっぱりとなくなった。

 代わりに繰り返されるのは、ピアノに関する楽しい思い出の記憶ばかりだ。


「奏太くん、お待たせ~☆」

「あ、椎名さん! 今日はありがとうございます!」

「これくらい朝飯前だよー!」


 入口で落ち合った二人は、会話を交わしながら店内へ入っていく。

 虹太は、不思議と落ち着いていた。

 先日のように、この場所から逃げ出したいという気持ちは湧き上がってこない。

 奏太はあらかじめ用意していた鍵でレッスン室のドアを開けると、虹太を招き入れた。


「どうぞ、ここに座ってください」

「はーい!」


 普段は講師が座っているのであろう椅子に、虹太は腰かける。

 防音室になっているこの部屋は、とても静かだった。

 奏太が鍵盤蓋を開け、ピアノ椅子に座った音がとても大きく聞こえるほどだ。


「……では、弾かせてもらいます」

「うん! 楽しみだなぁ~♪」


 奏太は深呼吸を一つすると、美しいメロディーを紡ぎ出す。

 それは、虹太にとって馴染み深い曲だった。


(俺が、初めてコンクールで優勝した時の曲だ……)


 虹太がこの曲に出逢ったのは、奏太よりも幼い頃のことだ。

 聴いてすぐに、旋律に美しさに惹き込まれた。

 そしてコンクールで演奏する曲に選び、見事優勝を果たしたのだった。

 楽しそうに演奏している奏太の姿が、昔の自分と被ったのだろうか。

 虹太の目からは、ぼろぼろと涙が零れ落ちていた。

 しかしそれを拭うこともせずに、真剣に奏太の演奏に耳を傾けるのだった――――――――――。

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