甘味をつつきながら、真面目な話でも
その後二人は、ショッピングモール内にあるクレープ屋にやって来た。
お互いに注文したものを受け取ると、空いていた席に座る。
「ふ~、今日も大量だったなぁ♪」
虹太は、キャラメルバナナ生クリームクレープをつつきながら一息ついた。
奏太も、自分の手にあるいちごチョコ生クリームクレープを行儀よく食べながら答える。
「椎名さんは、毎回こんなにたくさんの景品を取るんですか?」
「そうだね~。今日みたいに、基本的にお菓子のやつをやることが多いよ。俺の場合、景品が欲しいわけじゃなくてゲームをすること自体が楽しいからね。ぬいぐるみとかだと置き場所に困っちゃうけど、お菓子なら食べればなくなっちゃうし☆」
「これだけたくさんあったら、しばらくはおやつに困らなそうですね」
「いやいや、それがそんなことないんだよ~。一緒に住んでる友達、あ、さっきの弟がいる人とは別の子なんだけど、その子がめちゃくちゃよく食べるんだ! 今日の収穫量だと、多分三日はもたないだろうな……」
「……椎名さんは、友達がたくさんいるんですね」
それは、何気ない会話だった。
「そうだね~。確かに顔は広い方かも♪ 奏太くんの友達はどんな子が多いの? やっぱり奏太くんみたいに、大人っぽくていい子ばっかり?」
「いえ、僕は……」
「うん?」
「……友達が、いないので」
奏太の悲しそうな表情を見ながら、虹太は透花の言葉を思い出していた。
彼女は奏太のことを、”真面目過ぎて友達と遊ばない子”だと言っていた。
まさか、友達そのものがいないとは思ってもみなかったのだ。
「……奏太くんは、友達が欲しい?」
それは、先程までの彼のトーンとはかけ離れた落ち着いた声だった。
「え……?」
「……友達が欲しいのにできないのと、いらないから作らないのは別の話だからさ」
「……僕は、どっちでもないです」
「どっちでも、ない……?」
「……はい。友達は欲しいです。さっき言ってたゲームだって、ずっと一人でやってます。本当は、友達と対戦したり交換したりしたい……。でも僕には、それ以上にやらなくちゃいけないこと、やりたいことがあるから、友達は欲しいけど作らないんです」
「……奏太くんは、大人だね」
「そうですか……?」
「うん。その歳で、自分のやりたいことのために他のものを諦めてるってことだよね? とってもすごいと思うよ。でも、まだ子どもなんだかもっと色々欲しがってもいい気がする。そうじゃないと、いざ自分が大切にしてるものがダメになった時に、どうしたらいいかわからなくなるから……」
そう言った虹太の瞳は、どこか暗く淀んでいるように奏太には見えた。
「あ、あの、椎名さん……?」
奏太の声に、虹太は我に返る。
「あっ! 急にごめん! 年寄りの戯言とでも思っといて~」
「年寄りって、椎名さんまだ二十代じゃ……」
「細かいことは気にしなーい! そういえば、奏太くんがやりたいことってなんなの?」
虹太は、無理矢理話題を変えた。
その雰囲気に、子どもながらに奏太も何かを悟ったようだ。
これ以上深く追及せずに、自分も次の話題へと移る。
「お稽古事です」
「へ~、何をやってるの?」
「……この近くにレッスンしてもらっている教室があるんです。よかったらこの後、一緒に行きませんか? 椎名さんさえよければ、ぜひ披露させてください」
「え!? いいの~? 奏太くんが頑張ってるもの、見てみたいよー!」
こうして二人は、奏太が普段から通っている教室へ向かったのだった。
虹太は、まだ知らなかった。
そこが、極力近付かずに避けている場所であることを――――――――――。