信じる気持ちに蓋をして
※蒼一朗さん視点です。
何の反論もしない颯を見て、疑念が確信へと変わっていく。
(やっぱり、ただのオシャレじゃねーんだな……)
……そもそも、こいつの年齢でタトゥーを入れるのは普通じゃない。
オシャレだとしても、脚とか背中とか、場所はいくらでもあんだろ。
……でも、颯のタトゥーは一般的とは言えないデコに入ってる。
それを隠すってことは、見られたくないって気持ちがあるからだよな……?
(……そういう、ことだったのかよ)
颯が、絶対に俺らと一緒に風呂に入らない理由がわかった。
……こいつの性格的に、おかしいとは思ってたんだ。
風呂上がりでも、絶対にヘアバンドを外さねーしよ……。
……もちろん、ヘアバンドを外したところを見たことだってある。
その時は、こんなタトゥーが入ってるって気付かなかったけど……。
(……お前は、化粧品に詳しい。これを隠すことくらい、簡単なんだろ……?)
颯は相変わらず、ぽかんとした表情で俺を見ている。
……その顔が、どうしようもなく俺をイラつかせた。
俺はお前のことを仲間だと思ってたのに、お前は違ったのか……?
お前の本当の仲間は、組織の奴らなのかよ……!?
「……ふざけんなよ! 颯、俺の質問に答えろ!」
腹の底から湧いてくる怒りと憎しみが、俺に大声を出させる。
……裏切られた悲しみ、そして颯を信じる気持ちに蓋をして。
颯は肩をビクつかせたが、それに構うほどの余裕はなかった。
「このタトゥーは、いつ、どこで入れたもんだ!? お前は、例の組織の一員なのか!? ここに来る前の記憶がないっていうのも、嘘じゃねえだろうな!? お前が知ってること、ここで全部話しやがれ! そうじゃねえと……!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
「おい、颯……?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……! なんでも言うこと聞きます……! だから殴らないでください……!」
颯は、突然床に頭を擦り付けながら俺に許しを求め始めた。
……その体は、何かに怯えるように小刻みに震えていた。
(俺、そんなに強く怒鳴っちまったか……?)
土下座をする颯を見て、頭がすっと冷えていくのを感じる。
少し冷静になった俺が、今度は呆然とした表情で颯を見つめる番だったんだ――――――――――。