一瞬の油断が、全ての崩壊を招くんだ。
※颯くん視点です。
(くそっ……。眠いのに眠れないの、マジで辛いぜ……)
この日も俺は、あの夢を見て夜中に飛び起きてしまった。
洗面所で手を洗いながら、鏡に映った自分の顔を見る。
そこには、目の下に大きな隈を作った不健康そうな俺がいた。
(なんとか学校は行ってるけど、授業中にウトウトしちゃうしな……。俺、バカでも授業態度がいいのだけはいつも褒められてたのに……。このままじゃ、その内休むことになるかも……。俺、学校大好きなのに……)
俺にとって学校は、とても楽しい場所だった。
頭が悪いから授業にはイマイチついていけないけど、みんなと同じ教室で先生の話を聞いてるだけでなんだかワクワクするし、幸せだなって思うんだ。
……時々、女子と交流しなきゃならないイベントがあるのはきついけど。
(休みたく、ないなあ……)
このままだと、今日も色々と考えちゃって眠れないんだろう。
逆効果かもしれないけど、俺は水で顔を洗うことにした。
頭をサッパリとさせた方が、なんとなく眠れるような気がしたから。
「……なんだ、颯かよ。相変わらず眠れねーのか?」
洗顔用のヘアバンドをして顔を洗っていた俺に、突然声がかけられる。
(……この声は、蒼一朗さんか。心配させちゃいけねーよな……)
そう思った俺は、タオルで顔を拭きながら後ろを振り返った。
「すみません! 起こしちゃいましたか?」
心配をかけないように、いつも通りの笑顔で言ったつもりだ。
……だけど蒼一朗さんは、信じられないものを見るような顔をしていた。
「蒼一朗さん、どうかしたんすか?」
「颯、お前……。そのデコのタトゥー……」
「あっ……!」
……すぐにタオルで隠したけど、もう遅い。
睡眠不足で頭が回らなかった俺は、デコを隠すことを忘れていたのだ。
これまでずっと隠してきた、謎の刺青が入ったこの場所を……。
「……俺の見間違いじゃ、ねーよな?」
「ちょっ、蒼一朗さん……!? やめてくださいっす……!」
蒼一朗さんは、俺に近寄ってくると強引にタオルをどかした。
その力はとても強いもので、今の俺じゃとても振りほどけない。
……蒼一朗さんは、親の仇でも見るような目で俺の刺青を見ていた。
「……んで、お前に……」
「え……?」
「なんでお前に、この刺青があんだよ!?」
蒼一朗さんは、俺の腕を掴んだまま大きな声でそう叫んだ。
その表情は、見たこともないくらい怒っているのに、どこか悲しそうで……。
そんな蒼一朗さんを、俺はバカみたいに口を開けて見上げることしか出来ないんだ――――――――――。