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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十七話
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奇跡よ、もう一度

※颯くん視点です。

「うるさい、黙れっ……!」


 俺はベッドの上で、叫びながら飛び起きた。

 体は汗をびっしょりかいてて、息が苦しい。

 そんな状態でも、部屋を出て洗面所へと向かう。

 これをしないと、もっとおかしくなりそうだから……。


(汚い、汚い……! 早くキレイにしねーと……!!)


 石鹸をつけて、ゴシゴシと手を洗う。

 ……もちろん、夢の中みたいに赤くなってるわけじゃない。

 それでも、納得がいくまで洗わないと落ち着かないんだ……。


(さすがに、透花さんの部屋には行けないよな……)


 前は、この夢を見る度に透花さんに話を聞いてもらってた。

 ……そうすると、“緒方颯”はここにいてもいい人間だって思えるから。

 だけど、ここ最近の透花さんはすっげー調子が悪そうなんだ……。

 ……俺のことで、透花さんに余計な心配をかけるのは絶対にダメだ。


(部屋に、戻ろう……)


 一通り手を洗った俺は、出来るだけ静かに自分の部屋へと戻る。

 ベッドに横になるけど、また夢を見るのが怖くて簡単には眠れない。


(俺が知らない“俺”を取り戻せば、あの夢は見なくなるのか……? どうしたら思い出せるんだ……? くそっ、思い出したい気持ちはあるのに……!)


 去年の夏、初めてあの夢を見た日から腹はくくっている。

 どんなに辛く汚い過去でも、俺の一部であることには違いないから。

 俺は絶対に、忘れている記憶を思い出さなきゃいけないんだ。

 ……でも、そう思うだけで思い出せるほど単純じゃないんだよな。


(……渉、今頃何してるかな。連絡先、ちゃんと聞いておけばよかったぜ……)


 夏のアウトレットモールで偶然会った、友達の顔を思い浮かべる。

 俺の過去を知っているのに喋りたがらなかった、唯一の知り合い。


(……もう一度会えたら、絶対にいろんな話を聞くのに。渉、今王都にいたりしねーかな……。……まあ、そんな都合のいい話があるわけないか。あの時あそこで会えたのだって、奇跡に近いレベルだろうし……)


 そんなことを考えている内に、時間はどんどん過ぎていく。

 結局、深く眠ることは出来ないままこの日も朝になっちゃったんだ――――――――――。

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