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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十七話
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赤と黒の呪縛

※颯くん視点です。

「颯はいい子だ。さぁ、こっちに来るんだよ」


 ……真っ暗な空間に、ここ数週間で聞き慣れた声が響く。

 知らないはずなのに覚えている、ねっとりとした女の声だ……。

 去年の夏、俺と一緒に育った渉って奴に会ってから、夢を見るようになった。

 真っ暗闇の中で知らない女の声が俺に語りかけてくる、怖い夢……。

 今までは、一ヶ月に一回くらいしか見なかったのにな……。

 ここ数週間は毎日のようにこの夢を見るせいで、俺はちっとも眠れない……。


(これは夢だろ……!? 頼む、早く覚めてくれ……!)


 ……最初の頃は、この声に抵抗するようなことも言ってたんだ。

 だけどこの声は、俺が何を言おうと、どこまで行こうと追いかけてくる……。

 ……その内俺は、抵抗をやめて目が覚めるのを必死に待つようになった。

 同じ夢を見続けてたら、これが夢だってわかるようになってきたからな……。

 ……こんなに怖いことが起こるのは、夢の中だけだ。

 現実の俺は、温かい空気に満ちた家の中で、静かに眠ってるんだ。


(だから早く起きてくれよ、俺……!)


 夢の中の俺は、少しでも声を遠ざけるようにてのひらで耳を塞いた。

 そんな俺をバカにしてるみたいに、声はどんどん大きくなっていく。


「そろそろ帰っておいでよ。普通の子どもの暮らしなんて飽きただろう?」

(うるさい、うるさい……! 俺が帰る家は、ここだけだ……!!)

「あんたみたいに汚れた子を受け入れられるのは、アタイしかいないんだから」

(黙れ、黙れ……! 俺は、お前なんて知らない……!!)


 “汚れた”って言葉を合図に、耳を塞ぐ俺の両手が濡れていく。

 それが真っ赤になってるってことくらい、もう見なくてもわかるよ……。

 頼むから、早く目を覚ましてくれ……!

 いい加減、頭がおかしくなりそうなんだ……。

 俺は耳を塞いだまましゃがみ込んで、時間が過ぎるのをじっと待つ。

 これしか、俺にできることはないから――――――――――。

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