誰も望んでいない未来へと
※蒼一朗さん視点です。
「うおっ、衣が味噌汁を吸って微妙な食感に……」
「……眠れないなら、春原に睡眠薬でも処方してもらったらどうだ?」
味噌汁がついた天ぷらを口に運ぶ颯から、春原へと視線を移す。
俺の正面に座っている春原は、表情を崩さずに溜め息を吐いた。
「……そんなの、もうとっくにやってるけど」
「そうなんすよ! 薬は貰ってるんすけど、イマイチ効かなくて……」
「……今の薬が、僕が渡せるギリギリの強さのものだ。これ以上強い薬は依存性も高まるし、日中の生活に支障が出る可能性があるから処方は出来ない」
「うーっす……。眠れないのって、こんなに辛いんすね……」
そう言いながら颯は、天つゆ用の大根おろしをそのまますすっている。
いや、別にどう食おうが個人の自由だとは思うんだけどよ……。
これはさすがに、かなり重症なんじゃねえの……?
「……眠れないって、どんな感じなんだ? 異常に目が冴えちまうとか?」
「いや、ベッドに入ったらすぐに眠れるんすよ。でも、寝てる途中で何度も目が覚めちゃって、そのまま眠れなくなるっていうか……。……嫌な夢を見るんす」
「夢? お前、悪夢を見て眠れなくなるほど繊細だったのかよ」
「……自分でもそう思うっすよ。はあ……」
「……なんかわりい」
……ちょっとからかってやるつもりで言ったのに、悪いことしちまったな。
こいつが静かだと、なんとなくこの家の空気が暗くなる気がすんだよな。
俺も調子が狂うし、早く元気になってもらいたいと思うぜ。
「……寝る前に、リラックスできるようにハーブティーを淹れてあげるよ」
「ハーブティー……。理玖さん、それ牛乳入ってますか?」
「……君は、こういう時でもブレないね。……ハーブミルクティーにするよ」
「あざっす! ちゃんと寝ないと、背も伸びなくなっちゃいますからね!」
俺は、颯と春原の会話を聞きながら漬物へと箸を伸ばす。
この時、変に茶化さずに夢の話をもっと聞いてやればよかったのか……?
そうすれば、何かが変わったのかもしれなかったのか……?
どうして、こんなことになっちまったんだよ……!
……こんなの、俺も颯も望んでなんかいなかったはずなのに!
そんな後悔を抱えることになるなんて、考えもしなかったんだ――――――――――。
今回のお話は、蒼一朗さんともう一人の主人公の視点で進んでいきます。
わかりづらくないように、前書きにどちらの視点なのか表記していく予定です。