もし、オレがニンゲンだったら
「……ここが、僕と颯くんの教室だよ。2年B組……」
「ここで二人はベンキョーしてるんだな! 机と椅子がたくさんある!」
「僕の席はここで、颯くんの席はこっちだよ……」
「シンの席に座ってみてもいいか!?」
「……うん、どうぞ」
心とぱかおは、最後に心が毎日通っている教室を訪れた。
ぱかおが心の席に座ると、心は自分の荷物からクリームパンを取り出す。
それをぱかおに渡してから、隣の席にゆっくりと腰を落ち着けた。
「……はい、これ。さっき言ってたクリームパンだよ……」
「おお! これが、シンが勝ち取ったクリームパンか! 食べてもいいか!?」
「……もちろん。もうすぐ帰るけど、夕飯もちゃんと食べられるよね……?」
「当たり前だ! ハルヒサのご飯なら腹がいっぱいでも食べられるぞ!」
「……確かに、それくらいおいしいもんね。いただきます……」
「いただきまーす!!」
二人は、仲良くクリームパンを頬張った。
ふわふわの生地の中から、とろとろのクリームが流れ出す。
それは、なんとも幸せな甘さだった。
「……うまー!!!!! なんだこのクリームパン、めちゃめちゃうまいぞ!」
「ねっ、本当においしい。何個でも食べられちゃいそう……」
二人は、クリームパンを片手に近況について話し始めた。
今のぱかおは、心以外の人間とも言葉を交わすことが出来る。
そのため、ぱかおは他の皆と過ごす時間を優先していたのだ。
心にとって、ぱかおの行動は少しだけ寂しいものだった。
だが、ぱかおが楽しそうなのでそれを態度に出すようなことはしない。
久しぶりに二人きりで過ごす時間は、穏やかに過ぎていく。
「ガッコウって楽しいのか?」
「……うん、僕は学校、大好きだよ」
「そうか! ハヤテもヤマトも、ミウも毎日楽しそうだもんな! でも、テストの前の時のシンとハヤテは大変そうだぞ! 楽しそうには見えない……」
「僕も颯くんも、あんまり勉強は得意じゃないからね……。でも僕は、勉強も嫌いじゃないよ。新しいことを覚えるのって、楽しい。ちょっと苦手なだけで……」
「出た! キライとニガテの違いだ! オレにはよくわかんない!」
「……そうだなぁ。ぱかおは、人間が嫌い……?」
「キライじゃないぞ! イッシキタイのみんなみたいに、いいヤツもいっぱいいるって知ってるからな! でも、それ以外のヤツらはまだ怖い……」
「嫌いと苦手の違いって、そういうことなんじゃないかな……?」
「こういうこと、なのか……?」
「……うん。ちょっと、うまく言えないけど……」
「……そっか! ちょっとだけわかった気がする!」
「ふふふ、よかったね……」
その後も二人は、色々な話をした。
途中で、心の制服を見たぱかおが何気なくこう言ったのだ。
「オレがもしニンゲンだったら、そのセーフク着て、こうやって隣の席でベンキョーとかしたのかな!? 一緒にブカツやったり、クリームパン買いに行ったりさ! 考えただけでも、すっごく楽しそうだ!!」
この言葉を聞き、心は少し前から抱いていた疑問を口にする。
「ぱかおは、このままずっと人間でいたいと思うことってある……?」
理玖の力を以てすれば、決して不可能なことではないだろう。
心の質問を聞くと、ぱかおはにっこりと笑う。
そして、何の迷いもなくこう言い切ったのだった――――――――――。




