いざ、夜の探検へ!
――――――――――――パチパチパチパチ。
心が的の中心を射抜いた矢をぼうっと見ていると、背後から拍手が聞こえた。
振り向くと、憧憬を宿したような笑顔でぱかおがこちらを見ている。
「シン、すごかったぞ! さっきまではカッコイイ感じだったけど、今のはとってもキレーだと思った! 男にキレーって言うのは、ちょっと変か?」
「……ううん、そんなことないよ。そう思ってもらえて、すごく嬉しい」
「言ってた通り、真ん中にあてちゃうんだもんなー! シンはすごいヤツだ!」
「……えへへ、ありがとう、ぱかお」
ぱかおに釣られるように、心も少年らしい笑みを浮かべる。
「オレもやってみたいんだけど、できるかな!?」
「……うん、できるよ。先生、この子に教えてあげてもいいですか……?」
「おー、いいぞ。ここで見てるから、怪我だけには気を付けろよー」
「……はい。ありがとう、ございます……。ぱかお、僕の真似をしてみてね……」
「おう! おっ!? ユミって結構重いんだな! シンは力持ちだ!」
こうしてぱかおは、心に教わりながら弓を引くことになった。
だが全くの素人のため、何回やってみても矢は的まで届かない。
文化祭で透花は見事に的を射抜いていたが、あれは普通ではないのだ。
数をこなす内にぱかおの腕はプルプルと震え、上がらなくなってくる。
「ダメだー! もうできないぞ! まだあたってないのに!」
「……おしまいにしようか。この後、校舎の中の案内もしたいし……」
「残念だけど、仕方ないな! 届かなかったけど、やれて楽しかったぞ!」
二人にやり取りを見ていた竹彪は、弓道場を後にしようとする。
「じゃあ、先に職員室に戻ってるわ。結城、片付けと施錠は頼んだぞ」
「先生、僕たちに付き添ってなくていいんですか……?」
「俺も、そこまで暇じゃないんだよ。お前らなら問題も起こさないだろうし、まあ大丈夫だろ。校舎の案内が終わったら、最後に声だけかけに来てくれー」
「わかり、ました……」
「じゃあ、また後でなー」
竹彪はそう言うと、軽く手を振りながら弓道場を出て行った。
その背中を見ながら、ぱかおがぽつりと呟く。
「オレが今日ここに来れたのって、アイツのおかげなんだよな……?」
「……うん。ぱかおが学校に入ってもいいって、許可を取ってくれたんだ」
「じゃあ、帰りにありがとうって言わなきゃいけないな! シンと仲良しってことは、アイツは怖いニンゲンじゃなくていいニンゲンってことだ!」
「……そうだね。二人でお礼を言ってから帰ろう」
ぱかおは、未だに人間への恐怖を完璧に克服したわけではない。
今日も、直接竹彪と言葉を交わすようなことは出来る限り避けていた。
竹彪もそれに気付いているようで、必要以上に接触してくることはなかった。
「……じゃあ、片付けをしようか。ぱかお、手伝ってくれる……?」
「もちろんだ! 何をすればいいんだ!?」
「……あの矢を取りに行こう。横にある道を通って行くんだよ……」
「わかった! オレ、頑張るぞ!」
二人は協力しながら、片付けや清掃などをあっという間に終わらせた。
そして、夜の校舎の探検に繰り出したのだった――――――――――。