若いってのは怖いねえ
「二人とも、すごい間抜け面になってんぞ。そんなにかっこよかったかー?」
ニヤニヤと笑う竹彪を見て、心は漸く我に返る。
ぱかおはまだ先程の余韻に浸っているのか、口を開けて放心していた。
「先生、弓道やってたんですか……?」
「おー、学生時代にちーっとばかしな」
「でも、今まで矢を射ることなんて一度もなかったのに……」
「まあ、正直今のはまぐれみたいなもんだよ。ブランクがある俺よりも、毎日練習してる上級生やコーチに教わった方がお前たちの吸収も早いと思うし」
「あんな綺麗な姿勢を見たら、みんなきっと尊敬しますよ……」
「ははは、別に尊敬されたくて顧問をやってるわけじゃないからいいんだよ。あっ、俺が弓道できるってことはみんなには秘密にしてくれよー。バレて、色々と騒がれるのも面倒だからな。俺は、平凡なゆる~い教師でいたいんだよ」
「わかり、ました……」
「うーし、いい返事だ。ほら、次はお前がやってみろよ」
竹彪は心の背中をポンと優しく叩くと、射場の後方へと下がる。
ぱかおにかっこいいところを見せたいという気持ちや、的の中心に矢を中てたいという気持ちはいつの間にか心の胸中から消え去っていた。
彼の頭の中にあるのは、シンプルな一つの感情だけである。
(僕も、あんな風に綺麗な姿勢で矢を射ってみたい……!)
先程よりもしなやかな動作で弓を構えると、矢を番える。
放たれた矢は、今度こそ的の中心を射抜いたのだった。
それを見て、心とぱかおはほとんど同時に息を呑む。
「少しアドバイスしただけで出来ちまうんだから、若いってのは怖いねえ」
しんとした弓道場に、竹彪の嬉しそうな声が響いたのだった――――――――――。