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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十五話
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イタイ料理があるなんて、初めて知ったぞ……。

「ゆっくりでいいですからね。怪我をしないように気を付けてください」

「わかった! にんじんの皮をむけばいいんだな!」


 ぱかおは、右手にピーラー、左手に人参を構えている。

 その隣では、晴久が手際よく玉葱を刻んでいた。


「オレも料理がしてみたい! ハルヒサを手伝うんだ!」


 ぱかおは、晴久の料理の味見役を買って出ることが多かった。

 その過程で、自分もいつか料理をしてみたいと思っていたようだ。

 ぱかおに渡されたピーラーは、刃がシリコンで出来た物である。

 そうそう指を切ったりはしないが、慎重に手を進めていく。


「ハルヒサ! できたぞ! これでいいか!?」

「わあ、とっても上手にできていますよ。ありがとうございます、ぱかおくん」

「むきすぎて、ちょっぴり実が小さくなっちゃった気もするけど……」

「大丈夫です。この皮は、きんぴらにして食べてしまいましょうね」

「ニンジンのキンピラおいしいよな! ゴボウに負けないくらい好きだ!」


 口元を緩ませながら言うぱかおに、晴久は穏やかな笑みを向ける。

 それから、戸棚から取り出したクッキー型をぱかおに渡した。


「今日はこれで、にんじんをかわいくしちゃいましょう」

「おお! 星に花、ハートまでいろいろあるな!」

「ぱかおくんが好きな物を使っていいですよ」

「じゃあ、全部使ってみたい! まずは星だ!」


 ぱかおは、楽しそうに人参を型で抜いていく。

 そんなぱかおを見ながら、晴久は自分の作業を進めていった。

 どうやら、今日の一色邸の夕食はカレーのようだ。

 晴久は、大きな鍋を一つと小さな鍋を二つ用意した。

 全ての鍋に、飴色に炒めた玉葱、ぱかおが型で抜いたにんじん、大きめに切ったじゃがいもを入れ、じっくりと炒めていく。

 大きな鍋と、小さな鍋の片方には途中で牛肉を加えた。

 もう一つの小鍋には、カレー粉とトマトも入れたようだ。

 水を入れ、野菜と肉が柔らかくなるまでコトコトと煮込む。

 具材が柔らかくなったら、大きな鍋には市販のカレールー、肉が入っている小鍋には様々なスパイス、そして全ての鍋に隠し味を入れ、味を整えていく。


「ぱかおくん、どうぞ。味見をしてみてください」

「やったー! ……んん、おいしいぞ!」

「それはよかったです。……うん、こっちも美味しくできました」


 晴久がぱかおに差し出したのは、肉が入っていないカレーだ。

 ぱかおは、乳製品や卵などの“動物本体ではない”動物性食品は口にすることができるが、肉や魚などは食べない。

 そのため、カレーの日は動物性食品を一切摂取しない理玖と同じものを食べることにしているのだ。


「もう少し煮込んだら完成です。その間に、サラダを作ってしまいましょう」

「ハルヒサ、こっちの鍋は味見しなくていいのか?」


 大鍋の味見を終えた晴久は、サラダの準備を始めようとする。

 残ったもう一つの小鍋の味見を行おうとはしなかった。


「はい、これはいいんです。後で虹太くんに味見してもらいますから」

「コウタに? なんでだ?」

「虹太くんは、辛いカレーが大好きなんです。だからこのカレーは、ものすごく辛いんですよ。僕も香りだけを頼りに色々なスパイスを入れているので、どれだけ辛いかは正直わからないんですが……。嗅いでいるだけで、目が痛くなります」

「それはすごいな! オレ、ちょっと味見してみたい!」

「えっ!? でもこのカレーは、お肉を入れて煮込んじゃいましたけど……」

「少しくらいなら平気だ! もちろん、ニクの部分は食べないし!」

「……本当に、食べてみたいですか? 本当に、本当ですか……!?」

「おう! そこまで言われると、もっと興味が湧いてきたぞ!」

「……わかりました。本当に、少しだけですからね……?」


 晴久はそう言うと、小皿にカレーを入れてぱかおに渡す。

 そこからは、およそカレーとは思えない刺激臭が漂っていた。

 目が痛くなる前に、ぱかおはそれを口に入れてみる。

 その瞬間に広がったのは、とてつもないほどの痛みだった。

 味など全くわからず、ただただ痛さと熱さが彼を襲う。


「!#$%&@;*?」

「ぱかおくん! しっかりしてください、ぱかおくーん!」


 あまりの辛さに、ぱかおはその場で卒倒してしまう。

 聞いたこともないような晴久の大きな声が、夕方の一色邸に響き渡ったのだった――――――――――。

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