裸の方がラクチンだけど、たまにはな!
「こういうのはどうだ? かっこいいと思うぜ!」
「颯ちゃん、何言ってんの! こっちのかわいい服の方が似合うわよ!」
「おお! どっちもいい服だな! 両方着てみたいぞ!」
ぱかおは現在、颯と由莉の着せ替え人形になっていた。
二人が持ってくる服を、代わる代わる試着していく。
「せっかくニンゲンになったからな! オシャレをしてみたいぞ!」
この要望を叶えるべく、ぱかおは颯と一緒に由莉の店を訪れたのだ。
人間になったぱかおは、心と颯の服を裾と袖を捲った状態で着ていた。
その姿で来店したぱかおを見て、由莉の心に火が点いてしまったらしい。
彼に似合う服を見繕うべく、様々なジャンルの衣類を薦めてくるのだ。
「どうだった? 気に入った服はあったかしら?」
一通りの試着を終えたところで、由莉が聞いてくる。
ぱかおは満面の笑みを浮かべると、心底嬉しそうに言った。
「どの服も気に入ったぞ! ここの店の服は全部かっこいい!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ありがとね、ぱかおちゃん。優柔不断とかじゃなくて、本当にそう思ってくれてるって感じの笑顔だわ」
「でも、全部買うわけにはいかないからなー。興味があるヤツを絞って……」
三人が話していると、店のスタッフが由莉に声をかけてきた。
「店長、御来客中にすみません。お電話が入っているのですが……」
「わかったわ。お二人さん、ここで一旦失礼するわね」
由莉はそう言うと、店のバックヤードへと消えていく。
その後も服を見ていると、颯があることに気付いた。
ぱかおの視線が、ある一点で止まっているのだ。
「ぱかお、欲しい服があったのか?」
「あの服、シンとミウがよく着てるヤツに似てるな!」
「ああ、ピンクのポンチョか! 二人が着てるのもここで買ったやつだぜ!」
「そうなのか! でも、二人のとはちょっと違うような気もするぞ……?」
「二人のは水玉の大きさが全部一緒だけど、あれは違うからじゃないか?」
「なるほど! 服って本当にたくさん種類があるんだなー!!」
そう言ったぱかおの視線は、その服から離れない。
どうやら、よほどそのポンチョが気に入ったようだ。
「気に入ったなら、あれを買おうぜ!」
「いや、いらないぞ!」
「他に買いたい服があるのか?」
「ううん、ない! オレ、ニンゲンの服は買わなくていいんだ!」
「でも、オシャレをしてみたいって言ってただろ?」
「おう! いろんな服を着れてオレは満足だぞ!」
「単純に人間の服を着てみたいって意味だったのか!」
「いつまでこの姿でいられるかわかんないし、ムダになっちゃうからな!」
「だけど、俺と心の服じゃ動きづらくないか? ちょっとデカいだろ?」
「平気だ! 新しい服より、ハヤテとシンのニオイがする服の方が安心する!」
にこにこと笑うぱかおに、颯も笑顔を返す。
「わかった! じゃあ、今日はとことん試着しまくろうぜ!」
「やったー! あっ、ハヤテにお願いしたいことがあるんだ!」
「おう、なんだ?」
「ああいうポンチョって服、動物のオレ用に作れないか!? ニンゲン用はいらないけど、アルパカ用だったら欲しいぞ! シンとミウとお揃い!!」
「いい案だな! きっと二人も喜ぶ! 全く同じのは難しいけど、似たようなやつなら作れると思うぜ! 帰りに手芸屋に寄って布を探してみるか!」
「わーい! ハヤテ、ありがとう!!」
ぱかおはこの後も、様々な服を試着した。
ぱかおは何も買わなかったが、颯はTシャツを二枚ほど購入したようだ。
長居したにも関わらず手ぶらで帰るわけにはいかないという配慮ではなく、単純に気に入ったTシャツを見つけただけというのがなんとも颯らしい。
そして、手芸屋で桃色のドット生地を買ってから家に帰ったのだった。
ぱかおがアルパカの姿に戻ってから数週間後には、お揃いのポンチョに身を包んだ心と美海とぱかおの姿が目撃されたという――――――――――。