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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十五話
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四つ足なら多分オレの勝ちだ!

「本気のソウイチロウとキョウソウしてみたいぞ!」


 ぱかおの要望を叶えるため、蒼一朗とぱかおは陸上用トラックを訪れていた。

 ここは、透花と蒼一朗がいつも走っている場所でもある。

 ぱかおはいつも、本気の蒼一朗と競走してみたいと思っていた。

 だが、一色邸の庭には理玖によって整えられた美しい花壇が広がっている。

 裏庭もあるが、そこには晴久が世話をしている家庭菜園があるのだ。

 勢いあまって花や野菜に突っ込んでしまえば、理玖と晴久が悲しんでしまう。

 そのため、蒼一朗と競走するという夢はこれまで叶わなかったのだ。


「怪我すると大変だから、準備運動はしっかりしろよ」

「おう! わかったぞ! クッシンとかシンキャクだろ!」

「おっ、よくわかったな」

「当たり前だ! ソウイチロウがやってるのをいつも見てるからな!」


 二人は並んで準備体操をしてから、スタート地点に着く。


「……よーい、スタート!!」


 そして、蒼一朗の合図をきっかけに勝負は始まった。

 ぱかおは、いつもよりは長いが、蒼一朗よりは短い脚を動かし懸命に走る。

 だが、みるみる内に蒼一朗の大きな背中は小さくなっていってしまった。


(すごい! ソウイチロウはやっぱり速いんだ! かっこいい!!)


 負けていることなど構わず、目の前の光景に感動したその時だった。

 ――――――――――――どてっ。

 二足で走ることに慣れていないぱかおの足が、突然縺れてしまう。

 受け身を取ることも出来ず、ぱかおは顔から地面に倒れ込んでしまったのだ。

 後ろから聞こえてきた大きな音に驚いた蒼一朗が、こちらを振り向く。


「おいっ! 大丈夫か!?」


 蒼一朗は勝負を中断すると、急いでぱかおに駆け寄ってきてくれた。


「おう! 大丈夫だぞ! 全然痛くないからな!」


 元気よくそう言いながら、ぱかおは顔を上げる。

 顔を思い切り打ったため、その鼻からは血が流れ出していた。


「おまっ、鼻血出てんじゃねえか!」

「鼻血? こんなの平気だ! 早く勝負の続きをしよう!」

「こらっ、乱暴に擦るんじゃねえよ! ちょっとこっち来い!!」


 蒼一朗は、ぱかおを抱え起こすとトラックから離れる。

 荷物が置いている場所まで行くと、そこからタオルを出しぱかおに渡した。


「ほら、これで拭いとけ。あーあー、膝も擦り剥いてんじゃねえか……」

「こんなの舐めとけば治るぞ! ソウイチロウは心配症だな!」

「アルパカの時はそうかもしんねーけど、今のお前は人間だろ。怪我したら、ちゃんと洗って手当てしなきゃなんねーの。ほら、足出せ」

「ニンゲンは大変だなー。 ……沁みる! 沁みるぞ、ソウイチロウ!」

「こら、暴れんな!」


 蒼一朗は、持っていた水をぱかおの傷口にかける。

 その間も鼻血は止まらず、白いタオルが徐々に赤く染まっていった。


「勝負は中止だ。今日は帰るぞ」

「えっ!? なんで!? 俺なら平気だ!」

「あいにく、俺は消毒液やら絆創膏なんて持ってないからな。家に帰って、春原に手当てしてもらおうぜ。勝負は、お前の怪我が治ったらまた受けてやるよ」

「でも、オレはいつまでニンゲンでいられるかわかんないのに……」

「じゃあ、早く怪我を治さないといけねーな。それに、足を怪我してたら本気が出せねーだろ? 俺だって、やるなら本気のお前と戦いてーんだよ」

「……わかった! じゃあ、今日は早く帰らなきゃだな!」

「おう。ほら、乗っかれよ」


 背中を向けた蒼一朗に、ぱかおはすぐさま飛び付いた。

 だが、その背中は実に頼もしく、これくらいではビクともしないようだ。


「ソウイチロウ、すごいな! ニンゲンのオレでも余裕だ!」

「当たり前だろ。こういう時のためにいつも鍛えてるんだからよ」

「ムキムキってかっこいいよな! オレもトレーニングすればそうなるのか?」

「それはわかんねーけど、今の姿ならともかくアルパカのお前は鍛える必要ないだろ。その気になれば、誰よりもデカくなれるんだからさ」

「それもそうか! ムキムキなオレって、ちょっと想像できないしな!」

「こら、あんま動くな。タオルで鼻を押さえて、少し下を向いとけよ」

「おう! リクに薬を塗ってもらって、すぐに怪我を治すぞ!」

「まあきっと、さっきの水とは比べ物にならねーくらい沁みると思うけどな」

「うっ……! 一気に帰りたくなくなってきたぞ……」

「ははっ、さっきまでの威勢はどこいったんだよ。寄り道せずに帰るぞ」

「わかってる……」


 蒼一朗に背負われたまま、ぱかおは家路を辿る。

 アルパカの時よりも自分の体は大きくなっているはずなのに、それに比例して蒼一朗の背中もとても大きなものに感じるのだった――――――――――。

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