伝えたいこと、やってみたいことがいっぱいあるよ。
「リク、すごいな! お前みたいなヤツをテンサイって言うんだろ!?」
「うっ……!」
飛び付いてきたぱかおを、理玖はなんとか受け止めることができた。
彼の椅子が背もたれ付きでなければ、今頃二人で床に転がっていただろう。
上機嫌で頬を寄せるぱかおに、理玖は不思議そうに声をかける。
「……怒ってないの?」
「怒る? なんでだ?」
その質問に対し、ぱかおも心底不思議そうに答えを返した。
「……だって、自慢の毛がなくなってしまっただろう?」
「それは確かにショックだったけど、今はそこまで落ち込んでないから平気だ! ずっとこのままじゃないと思うし! ちゃ、ちゃんと戻れるよな!?」
「……薬のせいだから、短ければ数時間、長くても数日経てば元の姿に戻れるよ」
「それなら何の問題もないな! オレはむしろ嬉しいぞ!」
「嬉しい……?」
「うん! だって、リクはオレとおしゃべりしたくてこの薬を作ったんだろ? オレはそれがとっても嬉しいんだ! オレもリクと話してみたかった!」
ぱかおは太陽のような笑顔を浮かべると、皆を見渡した。
「もちろん、他のみんなともだぞ! オレ、自分がニンゲンだったらやってみたかったことがたくさんあるんだ! だから、それをぜーんぶやりたい!!」
ぱかおに釣られるように、ダイニングには皆の笑顔が満ちていく。
「こんなの、滅多にあることじゃねーもんな」
「……それもそうだな。出来る限りの協力はしよう」
「春原さん、ぱかおと話したいなんてかわいいところがあるんですね」
「あっ、俺も思った~☆ りっくん、意外とファンシーなんだね~」
「元気な一日のためにも、まずは朝ご飯を食べてしまいましょうか」
「……ん。おかわり……」
「うおー! なんだか腹が減ってきたぞ! 俺にもおかわりくださいっす!」
「学生組はそろそろ時間も気にしてね。のんびりしていると遅刻するよ」
「今日はあさのどくしょタイムがある日だよね! やまとくん、本えらんだ?」
「………………………………!!」
一色邸のリビングは、すっかりいつもの活気を取り戻していた。
それを見て満足そうに鼻を鳴らしてから、ぱかおは再び理玖の方を向く。
「リク、ほんとにありがとな! こうして直接お礼を言えるのも嬉しいんだ!」
「……うん」
「違うぞ! ありがとうって言われたら返さないといけない言葉があるんだ!」
「………………………………」
「リク、ありがとう!」
「……どういたしまして」
こうしてぱかおは、少しの時間を人間として過ごすことになったのだった。
やりたいことが多過ぎて、もしかすると限られた時間では足りないのかもしれない――――――――――。