草のせいじゃなくて
「……君が食べたのって、もしかしてこの草?」
「おう! そうだ! リク、よくわかったな!」
理玖が持っている草を見たぱかおは、大きく頷く。
理玖はポーカーフェイスを装いながらも、力なく椅子に座り込んだ。
「この草、動物を人間に変える力があるってことっすよね!?」
「もしそうだとしたら、大発見じゃ~ん☆」
「ふふふ、これを使って一儲けできそうですね」
「お前、ほんとぶれねえよな……」
「……まさか、そんな草が敷地内に生えているとは思わなかったな」
「森の奥なんて、滅多に行く場所じゃありませんからね」
「森の中は、静かでよく眠れるよ……。涼しいし、暗いし……」
「もっといろんな草が生えてるかも! やまとくん、後でさがしにいこう!」
「………………………………!!」
「楽しそうだね。私も一緒に行こうかな」
皆が盛り上がっている中、理玖は静かに狼狽していた。
その様子に最初に気付いたのは、透花である。
夏でもほとんど汗をかかない理玖の額に、冷や汗が浮かんでいるのだ。
「理玖、どうしたの? 体調でも悪い?」
「いや……」
理玖は溜め息を吐いてから、何かを決心したように口を開いた。
「……君が食べた草は、少し濡れていなかった?」
「おう! 濡れてたぞ! 周りの草はそんなことないのに、俺が食べたやつだけ濡れてた! いい匂いがしたのは、その草だけだったな!」
「彼が人間になったのはその草のせいじゃなくて、僕の作った薬のせいだ……」
理玖は誰とも視線を合わせずに、ぽつりとそう呟いた。
それほど大きな声ではなかったにも関わらず、その言葉は皆の耳までしっかりと届いたのだった――――――――――。