四足歩行のきみ
謎の少年と透花は、すぐに柊平と蒼一朗により引き離された。
少年は毛布に包まれ、部屋の隅に隔離されてしまう。
この状況が理解できないようで、彼は不思議そうな表情を浮かべている。
「みんな集まってどうしたんだ? 今日は何かある日だったか?」
だが、物怖じした様子はまるでなく、あくまでも堂々としている。
今度は隊員たちが、不思議そうに彼を見つめる番だった。
「えーっと、誰かの知り合いってわけじゃないんだよね?」
「……はい。少なくとも、この場にいる者の顔見知りではないようです」
「じゃあ、心の友達か? 年齢的にありえなくもねーけど……」
「でも、学校の友達なら俺も知ってるはずっすよ!」
「それに、心ちゃんは透花さんの許可なしに友達を泊めたりしないでしょ~」
「悪い子ではなさそうですが……」
「……それは楽観視しすぎじゃないの」
「こういう時は、ほんとに意見が合いますね。僕も右に同じです。純真無垢な顔をしてる人間ほど、腹の中は真っ黒だったりするんですから」
大好きな人たちが、自分に聞こえないようにコソコソと何かを話している。
自分に向けられる視線は、いつもとは比べ物にならないくらいに冷たい。
その現実に耐えられなくなった少年は、突然大声を上げた。
「一体どうしたんだよ!? トウカ、今日はどうして撫でてくれないんだ!?」
「いつも、撫でている……?」
「シュウヘイ、今日はいい天気だからクルマに乗せてくれよ!」
「車に、乗せる……?」
「ソウイチロウ、今日はトレーニング日和だぞ! オレも協力する!」
「トレーニングに、協力……?」
「ハヤテ、暑くなってきたからちょっと毛を切ってくれよ!」
「毛を、切る……?」
「コウタ、ちなみに鍵は閉まってなかった! オレが閉めてやったんだぞ!」
「え、マジで~?」
「ハルヒサ、オレ、今日ははちみつレモンが飲みたい! 作ってくれ!」
「はちみつレモン、ですか……?」
「リク、畑のイチゴが食べ頃だぞ! お前の好物だろ!」
「どうしてそれを……」
「ミナトはオレに優しくないけど、オレはミナトのこと好きだ!」
「あれ、僕だけディスられてない?」
皆の反応は、少年の思い描いていたものとは違ったようだ。
愛らしい瞳が、あっという間に涙でいっぱいになっていく。
隊員たちの中には、とある可能性に行き着いた者もいた。
だが、自分の中にある“常識”がそれ以上の思考を否定する。
少年はキョロキョロと部屋の中を見渡すと、立ち上がった。
彼を包んでいた毛布がはらりと床に落ち、少年は再び全裸になってしまう。
「シン! シン、どこだ!? みんながいつもと違うんだ! 助けてくれ!!」
そしてそのまま、四足歩行で透花の部屋を飛び出したのだった――――――――――。