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透く花の色は  作者: 白鈴 すい
第五十四話
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この道の先には、何があるのかな。

「……湊人くんは、これからどうする?」


 僕が通帳を見ながら頬を緩めていると、透花さんがそう言った。

 いつもの笑顔じゃなくて、言葉にしづらい不思議な表情をしているよ。


「これからどうするって、どういうこと?」

「湊人くんは、軍人になりたくてなったわけじゃないでしょう? 借金を返すために仕方なくとまではいかなくても、本当になりたかった職業は違うよね」

「まあ、そういう見方もできるかもね」


 確かに、昔の僕は軍人になることなんて考えてもみなかったよ。

 大学でめいっぱい勉強して、できるだけ高収入の仕事に就く。

 まあ、官僚あたりになれたらいいなって思ってたかな。

 でも、今は大学に通いながら軍人として働いてるんだもの。

 昔の僕に言っても、絶対に信じないだろうなあ。


「返さなければならない借金はなくなった。……軍人として働かなければならない理由も、もうない。夢があるなら、それに向かって歩き出すのも……」

「透花さん、ちょっと待って」


 僕は、彼女の言葉を最後まで聞かずに遮った。

 ……この人は最近、いつもと様子が違うことが増えたんだ。

 何かを考え込んでるかと思ったら、ぼーっとしてたりさ。

 人間なんだから、色々と悩むことだってあるだろう。

 でも正直、こういう透花さんは全然らしくないと思うんだ。

 いつもみたいに余裕の笑みを浮かべて、僕たちを導いてよ。

 大方今回も、つまらないことでも考えてるんでしょ。


「もしかして、僕にこの隊を離れてほしいって言いたいの?」

「……違うよ。でも、本当にやりたいことがあるんじゃないかなって思って」

「あなたの隊に、僕は必要ない?」

「そんなわけない……!」

「それならいいじゃない。これからも、僕をここで働かせてよ」


 僕を見る透花さんの顔は、気が抜けてどこかマヌケだ。

 ふふふ、こんな表情を見るのは初めてかもね。


「確かに、なりたくてなった職業じゃないよ。あの時は、生きるために他の選択肢がなかった。でも、今は違う。僕はちゃんと、自分の意思でここにいるんだ」


 ……自分の想像以上に、僕は“軍人”になってる。

 それが、今回の事件で悔しいことに証明されちゃったしね。


「とりあえず、あなたに借金を返すって目標はなくなった。これから自分はどうしたいのか、どういう大人になりたいのか、どんな人生を歩んでいきたいのか、それをここで考えさせてくれないかな。僕はここが、とても気に入ってるから」


 ……素直に、好きだなんて言ってやらないよ。

 だって、そんなストレートな僕はつまらないでしょ?


「これまでみたいにガツガツ働かなくてよくなったから、もっと勉強に力を入れてみるよ。そうしたら、次の目標が見つかるかもしれないし。あっ、だからって仕事の手は抜かないから安心してね。個別の依頼も普通に受けるつもりだし。まあ、要するにこれまで通りここに置かせてもらいたいんだけど、ダメかな?」

「……ダメなわけ、ないよ。私だって、湊人くんにここにいてほしい」


 透花さんは、誰もが見惚れるくらい綺麗な笑顔でこう言ったよ。

 そうそう、あなたにさっきみたいな表情は似合わないんだから。

 この、あなたらしい笑顔で笑ってくれていればいいんだよ。


「うん。じゃあ、これからもよろしくね」

「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」


 こうして僕は、“軍人”として新しい一歩を踏み出したんだ。

 ……うーん、やっぱり新しい一歩っていうのはちょっと違うかな。

 これまで歩いてきた道を、今まで通り進むだけだからね。

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