すやすやと眠る銀色の毛玉
「心くん、傷の具合はどう?」
理玖に呼ばれた透花が、部屋に入ってきた。
心がいるベッドの横に置いてある椅子に腰かけながら、優しく声をかける。
「そこまで痛くない……」
「それならよかった。心くんなら、一週間もしないうちにいつも通りの生活に戻れるって理玖が言っていたよ」
「そっか……。弓道は、続けられる……?」
「うん。心配しなくても大丈夫。なんの問題もないって」
「よかった……」
心は、真剣に取り組んでいる部活を今後も続けていけることに安堵のため息を吐いた。
「あの、この子はなんでここに……」
自分の膝の上に置かれた毛玉を撫でながら、心は言う。
足元だと蹴ってしまう可能性があるため、先程移動させたのだ。
「……じゃあ、心くんが意識を失った後の話をしようか。私が、男たちの銃を奪ったところまでは覚えている?」
「……うん」
「すぐに彼らを拘束して、あの辺りを管轄している軍の人たちに引き渡してきたの。本来狩猟が禁止されている種の狩猟未遂、それに人に対しての発砲も行ったから、それなりに重い罪になると思うよ。少なくとも、今後銃を扱う許可は降りないはず」
「……そうなんだ」
「それで私たちも帰ろうとしたのだけれど、その子が心くんの傍を離れなくてね」
透花は、優しい眼差しをアルジャンアルパガへと送る。
彼の足には、包帯が巻かれていた。
「足を怪我していたから、そのまま連れてきてしまったの。治療するのも大変だったんだよ。心くん以外の人が触れようとするとひどく暴れるから、理玖が無理矢理麻酔をして眠らせて薬を塗ったんだ」
「……そうだったんだ」
「あそこで寝ていたはずなんだけど、この子、心くんのベッドの中にいた?」
透花は、心が今いるベッドから少し離れた場所を指差す。
そこには、毛布が敷かれていた。
「……うん。僕の足元で寝てた」
「じゃあ、一回目が覚めて心くんのベッドに潜り込んだのだろうね。邪魔にならないように足元で寝ているなんて、賢い子だなぁ」
「……そうだね」
心は、彼を優しく撫で続けながら目を細める。
「……あんまり長時間おしゃべりしてると、傷に障るよね。私はそろそろ戻るけど、何かしてほしいこととかある?」
「……お腹空いた」
いつもと変わらぬ様子でそう言った心を見て、透花は柔らかく微笑む。
「じゃあ、ハルくんに何か作ってもらおうね。ちゃんと起こすから、それまでは寝ていても大丈夫だよ」
「……うん」
椅子から立ち上がり部屋を出ていこうとする透花に、心は声をかけた。
「……透花さん」
「どうしたの?」
「……来てくれて、ありがとう」
「……どういたしまして!」
「約束守れなくて、ごめんなさい……」
「そんなのいいんだよ。心くんもその子も無事だったんだから、ね」
「……うん」
花の咲いたような笑みを浮かべると、透花は心の頭を一撫でする。
そして、そのまま部屋を出ていった。