初めて抱いた感情を、あなたたちに
翌日から僕は、反社会組織撲滅チームに加わったよ。
捜査を進めていく内に、色々なことがわかってきたんだ。
あの埋蔵金は、過去の高名な時計職人のものだったということ。
彼は職人として働きながら、数式を用いた暗号作りを趣味にしていたみたい。
何十枚にも渡る、数列が並んだ手書きの文書が発見されたんだ。
これを見た彼の子孫が、最新のプログラムに適用させたそうだよ。
だけど彼らは、その暗号を解くための鍵がどこにあるかまでは知らなかった。
時計職人の男は、自分が作った時計の中にそれを隠していたんだ。
プログラムを読み解くほどの知識を持ち、自分の時計と縁がある者。
両方の条件を満たした者になら、埋蔵金を与えてもいいって思ったんだろう。
……言ってしまえば、金持ちの道楽ってやつだよね。
そして、その道楽に巻き込まれたのが僕の両親だったんだ。
どうやってかは知らないけど、両親はその時計を手に入れてしまった。
……それを、僕へのプレゼントにするためにね。
裕福な暮らしをしている子孫たちは、埋蔵金に興味はなかったみたい。
暗号を解くための鍵探しも、特に行わなかったそうだよ。
……だけど、風の噂でその話を耳にした男たちがいた。
彼らは時計の持ち主である両親を探し出し、時計をよこせと言ったらしい。
……でも、二人はどうしても譲らなかったんだってさ。
言うことを聞かないことに激昂した男たちは、そのまま両親を手にかけた。
……捕まるのを恐れ、二人の死を自殺に見せかける小細工もして。
大金を手に入れられなかった腹いせに、架空の借金まで作るオマケつきでね。
親が持っていないのならば、子どもが持っているのかもしれない。
そう考えて、息子である僕のことももちろん狙っていたみたいだよ。
でも、僕は両親の死の後はすぐに人里離れた鉱山で働くことになったからね。
そこで透花さんと出逢って、王都で軍人として働くことになったでしょ?
その過程で、彼らは僕の消息がわからなくなっちゃったらしい。
……僕の両親を殺した男たちは今、刑務所の中にいるんだってさ。
この件じゃなくて、別の悪事を働いて捕まったって聞いたよ。
遠くない未来に、両親の殺害についても裁かれることになるだろうね。
ちなみに彼らは、今回の反社会組織とは何の関係もないみたいだ。
……僕の両親は、ただのチンピラ風情に殺されたってことだ。
反社会組織の奴らは、独自のルートであのプログラムを手に入れたらしい。
でも、どうしても解析できる人材がいなくて僕を頼ったんだってさ。
前任のプログラマーたちの失踪についても、彼らは罪を認めたよ。
プログラム解除の成否は問わず、関わった者は殺すつもりだったみたいだね。
……ふう、僕もそれなりに危ない綱を渡ってたってことかな。
これが、今回の埋蔵金事件、そして僕の両親の死の全てだよ。
(……この時計を手に入れなければ、二人ともまだ生きてたんだろうな)
僕は、自分の左手首に巻かれている腕時計を見ながら思う。
……どうして、僕の両親があんな目に遭わなければならなかったんだ。
僕たちはただ、静かに暮らしていただけだったのに……。
犯人を憎む気持ちが、僕の胸の中で渦巻いてる。
それは、とてもじゃないけど言葉にはできない感情だよ……。
……でも、この真実を知って少しだけ安心してる自分もいるんだよね。
僕の両親は、使途不明の借金を息子に残すような人間じゃなかった。
理由は分からないけれど、二人は時計を男たちに渡そうとしなかったんだ。
(……今の僕は、父さんと母さんが守ってくれからここにいるんだなあ)
僕は両親のことを、尊敬はしてなかったけど嫌いじゃなかった。
……でも、この考え方は改めざるを得ないよね。
(僕は、あなたたちを誇りに思うよ。父さん、母さん、ありがとう)
僕はこの日、生まれて初めて両親に“尊敬”という感情を向けたんだ――――――――――。