春の陽気に包まれながら、僕は
微睡んでいると、僕の肩に柔らかに物が掛けられるのを感じた。
この香り、透花さんのブランケットかな……?
僕は、閉じそうになる瞼をなんとか開くと、彼女へと視線を向ける。
だって、ずっと気になっていて、どうしても聞いておきたいことがあるから。
「透花さん……」
「湊人くん、疲れたでしょう? 少し眠った方がいいよ」
「……うん。その前に、一つだけ……。あの声、なんだったの……?」
「声? ああ、もしかして山小屋の管理人を名乗った声のこと?」
「どう聞いても老人の声なのに、扉を開けたら透花さんがいるんだもの……」
「相手を油断させるために、これを使ったんだ」
透花さんが取り出したのは、小さなメガホンのような物だった。
「それ、ボイスチェンジャー……?」
「ご名答。突然襲撃すると、湊人くんが更に危ない目に遭うかもしれないって思ったから。老人が相手だと思えば、少なからず隙ができるでしょう?」
「そっか、そうだったんだ……。謎が解けたよ……」
……どうやら、そろそろ本当に体力の限界みたいだね。
閉じそうになる瞼を、もう開けることすらできないんだもん。
「湊人くん、お疲れ様。ゆっくり休んで」
透花さんの声を、最後まで聞き取ることはできなかった。
春の麗らかな陽気に包まれながら、僕はゆっくりと意識を手放したんだ――――――――――。